今年度は北朝鮮の対外経済関係の歴史的変遷に関する研究を行った。建国時から現代にいたるまでの対外経済政策に共通する特徴と、時代ごとの変化について分析し、変化する情勢の中で北朝鮮指導部がどのように対外経済関係の維持と拡大に努めているかを検討した。 本研究計画を通じて、北朝鮮経済の実証分析に向けたデータ構築の作業が相当程度進捗した。申請者が作成した北朝鮮企業のデータセットに掲載されている製品データを、国際標準産業分類に基づいてコード化する作業はほぼ完了し、1980年代までの北朝鮮経済の産業構造をミクロレベルで分析するための基盤となるデータベースが構築された。このデータベースを用いて国内外の学会・研究会での報告も行い、有意義な研究交流ができた。また、『朝鮮地理全書』に掲載された道路網、鉄道網、発電施設などのインフラ情報を抽出・データ化する作業も進め、成果を研究会などで報告した。さらに、金正日政権から金正恩政権への経済政策の変遷の研究も行い、政策上の変化した部分と継続している部分を分析し、北朝鮮の経済政策に通底する根幹的要素を検討した。 当初の研究予定にはなかったものの、新型コロナウイルスのパンデミックに対する北朝鮮と韓国の対応と、その結果としての社会・経済的影響を比較分析し、防疫および社会・経済的被害の最小化戦略を検証することで、南北の国家・経済体制の比較分析を行った。 『朝鮮地理全書』の記述と1993年に国連の協力で実施された人口センサスのデータを用いて、北朝鮮の各行政区域における住民の人口数、住宅、教育・医療施設、企業の配置を分析し、ミクロの視点から北朝鮮経済の実相を明らかにする研究も進めている。 このように、本研究計画期間に行った研究活動は多岐にわたり、北朝鮮経済の実証分析に向けた基盤を着実に築いたと評価している。
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