研究課題/領域番号 |
20K13497
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
若野 綾子 東海大学, 政治経済学部, 講師 (80837112)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 政策効果 / 初等教育の無償化 / ミクロ計量経済学 |
研究実績の概要 |
本研究は「政策効果の異質性」に関する実証的検証を第一の目的としている。開発途上国では、ランダム化実験によって多数の開発プログラムの政策効果を実証する論文が発表されている。しかしながら、政策効果の推定では異質性があることが明らかとなってきた。本研究では1990年代以降に、複数の開発途上国において初等教育の授業料を無償化する政策が実施された経緯から、開発途上国における初等教育の無償化政策の政策効果に焦点をあてた。
2022年度は3年目となるが「ケニア共和国」を事例とし「政策効果の異質性」をテーマに2本の論文を執筆した。1本目は、すでに海外査読付き雑誌に論文の投稿を行っている。本論文の主テーマは、ケニア共和国における「初等教育の有償化」を事例にして「無償化」と対称的な政策効果が見られたかどうかを検証した。結果、教育投資が減少したことを確認した。2本目の論文は、家計内での男性と女性の教育年数が彼らの子どもへの教育投資に与えた影響を分析した。本論文では、家計内で女性の教育年数は「子どもの無就学」の確率を有意に下げることを確認したが、男性の教育年数には有意性を認めなかった。さらに、「子どもの無就学」の確率については、子どもが初等教育無償化に直面した後と直面する前では、親の教育年数の影響の大きさには違いが生じている。
初等教育無償化後においては「子どもの無就学」確率に対する親の教育年数の影響は僅かであったが、無償化以前においては親の教育年数の影響は大きいことが分かった。この一因としては、初等教育の無償化によって、親の教育年数による所得効果の影響が減じていることを察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は「政策効果の異質性」に関する実証的検証を第一の目的としている。研究計画の時点では、大きく分けて研究①:初等教育の無償化制度に関する「政策効果の異質性」を各国のデータから検証する。研究②:ケニア共和国に特化し、「無償化」の導入と「無償化」の廃止における「異質性」を検証する、の2点があった。
このうち研究②については、すでに海外査読付き雑誌に投稿を続けている。本研究②に派生して、親の教育年数が子どもへの教育投資にどのように影響するか、男女における異質性を検証した論文は、すでに国際学会(42nd EBES Conference - Lisbon (Eurasia Business and Economics Society)にて発表を行った。現在は、論文を執筆している途中であり、2023年度内に執筆を完了して投稿を行う予定である。
また、2020年4月より新型コロナ感染症に関連し、日本国内でも無数の経済政策が実施された。これに着目し、日本国内における経済政策の政策効果に着目した論文を執筆した。具体的には、困窮世帯に対する経済政策(緊急小口資金、総合支援資金などの無利子貸与や、住宅確保給付金などの家賃補助給付)を取り上げ、これらの政策が日本の自殺者数に与えた影響を推定している。本研究は、「The Economic Assistance and rate of increase in suicide during the Covid-19 pandemic」というタイトルで国際学会(The International Association for Suicide Prevention (IASP) Gold Coast, Australia)で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2022年度が3年目で最終年度の予定であった。これまでの研究は、すでに投稿が完了している研究論文「" Termination of universal primary education: Evidence from Kenya"」が成果としてある。
4年目の2023年度は、2022年度に国際学会(42nd EBES Conference - Lisbon (Eurasia Business and Economics Society)にて発表を行った論文で、コロナ禍における経済ショックと自殺者数に対する分析を終え、海外査読付き雑誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年4月から開始した本研究は、新型コロナ感染症の対策によって海外への自由な渡航に制限を加えていた。本研究は、海外での調査研究も含んでいたために、予算通りの執行が難しくなった。2023年度は本研究期間の最終年度として、予算執行を計画している。特に、本研究開始から3年経過したことでPCなどの設備の耐久性が落ちたこともあり、2023年度に購入を予定している。また査読付き海外雑誌に投稿するための英文校正にも支出を予定している。
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