2023年度は、2022年度の研究実績に基づき、1970年代末の連邦税制改正とそれに対する納税者の評価の歴史的研究に加え、同様の分析視角を1980年代のアメリカ連邦税制改正の歴史分析に適用し、研究を進めた。本年度は、これまで収集した資料の整理、消化を完了させ、この課題に関する研究論文の執筆に取り掛かった。そこで明らかにしたことは、①1970年代前半から一貫して、連邦税制の不公平性をもたらしていた租税優遇措置を一定程度縮小・廃止し、垂直的・水平的公平性を高める税制改正が課題となっていたこと、②その一方で、インフレーションの激化と経済停滞の重なり(いわゆるスタグフレーション)が発生する中、その要因が、欧州諸国や日本と比較して小さな民間貯蓄や資本投資にあるとする見方が政治経済的に影響力を持ったこと、③その状況下で、租税負担軽減措置による低中所得層減税と、資本所得に対する租税優遇措置を中心として、貯蓄・資産所得優遇と資本投資促進を目論む主張が力をもったこと、④1980年代初めにそれらの主張に沿った税制改正が実現したが、そのことが連邦財政赤字の爆発に繋がったこと、⑤その後、租税優遇措置の縮小・廃止をもたらす税制改正を通じた財政健全化の一方、税率引き下げの経済中立性を強調したその後の税制改正の課題となっていったことを明らかにした。 以上の研究成果を研究論文にまとめ、海外の査読付き学術雑誌に投稿する準備を進める段階で、研究期間を終了した。今後一年以内に、投稿を完了させる予定である。
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