研究課題/領域番号 |
20K13517
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菊地 雄太 早稲田大学, 商学学術院, 講師(任期付) (60782117)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 診療と研究のトレードオフ |
研究実績の概要 |
実証的な分析として、研究者のマルチタスクと研究生産性の間にトレードオフがあるかについて、示唆を得るために次のような分析を行った。 2004年に生じた国立大学独立行政法人化の結果、国立大学では、毎年運営費交付金の削減が行われるようになり、運営費交付金の削減による予算の減少を補うために、収入を得るための活動を行うインセンティブが働いた可能性がある。また、完全ではないものの、法人化により、国立大学(病院)は政府からより独立した組織となることができ、国立大学(病院)は、自らをより独立した組織と定義し位置づける過程で、医療に重点を置く経営スタイルに転換してきつつあり、研究活動よりも医療に重点を置いた経営にシフトしている可能性がある。大学病院は特に診療と研究というマルチタスクが重要な組織であり、もし以上の可能性が大きいならば、診療活動の増大が、研究活動の減少に結びついた可能性がある。 改革後の状況がこれらの仮説と整合的であるかどうかを、検証することにした。推定の結果、病院収入への依存度が高い大学ほど研究業績への負の影響が大きく、病院収入への依存度が低い大学ほど負の影響が小さいことが確認された。 病院収入への依存度が高い大学は運営支援金の減少を補うために大学病院の収入を増やそうとするはずであるという予想と整合的である。したがって、研究活動よりも医療提供を優先するインセンティブがより強く働き、その結果、臨床サービス提供のための資源が増加し、研究成果に大きなマイナスの影響を与えたということになる。逆に言えば、大学病院の収益への依存度が低い国立大学ほど、大学病院以外のルートで収益を上げることができる。つまり、クラウディングアウト効果が存在しても、それらの大学では研究活動への悪影響は相対的に弱かった。 このように、特に大学病院の診療と研究のトレードオフに間接的に着目し、分析をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各研究者が研究活動に各活動への時間投入をどのように行なっているのか、についてデータを収集する予定であった。しかし、コロナ感染拡大による状況の混乱により、インタビューの実施が困難になり、計画の中断と変更を余儀なくされた。 しかし、直接それらのデータを観察せずとも、間接的に実証を行う方向性へシフトした。その結果、例えば、上記のような分析を行い、これは実際に査読付き雑誌Japanese Economic Reviewに拙論文中で昨年議論を追加した形で刊行された。従って部分的にプロジェクトの成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
臨床サービスは増加し、医学研究は減少したようである。したがって、医療改革が医学に及ぼした負の影響が全体的な厚生損失を意味するのかどうかは、すぐには分からない。しかし、改革後の医療サービス需要全体は変化しないので、サービス供給の増加による厚生改善は無視できるほど小さく、したがって、全体的な厚生損失があると思われる。これらの結果について、実証分析を行うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたように、コロナ禍により、インタビュー調査を行うことができなくなった。また、当初予定していた出張も無くなった。さらに、データ処理のためのPCを購入することを考えていたが、今年度は必要性が生じなかったので、結局購入しなかった。そのため、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、本年から大阪大学に異動するので、それに伴うデータ処理用のPCの購入に充てる。
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