最終年度は、労働市場のマッチング関数の推計をとおして、正規社員・非正規社員のマッチングの効率性や、職発見確率の求人倍率に対する弾力性について分析を行った。マッチング関数の推計にあたっては、OLSによる推計にさまざまなバイアスの可能性があるため、Borowczyk-Martins et al.(2013)の推定を中心に複数の推計手法を試した。データは、一般職業紹介状況(厚生労働省)の正規社員・非正規社員別の求人数・求職者数・就職件数を用い、2004年11月から2023年2月までの期間で分析を行った。分析の結果、(1)マッチングの効率性は、正規社員よりも非正規社員でより高くなること、(2)職発見確率の求人倍率に対する弾力性は、非正規社員よりも正規社員で高くなることがわかった。前者の結果は、高スキルの職の雇用は低スキルの職の雇用よりも、マッチングに時間を要するというBarnichon and Figura(2015)の仮説と整合的である。最終年度の分析は、正規社員と非正規社員のマッチング関数が異なる形状をしていることを示唆しており、これは正規社員と非正規社員が分断された労働市場(二重労働市場)で、それぞれ職探しを行っているという理論モデルと整合的である。これまでの研究では、日本の失業率の変動は、非正規雇用に関連する労働フローによって多くを説明されること、日本の非正規雇用比率の高止まりは、正規社員と非正規社員の間の労働フローが非常に小さいことに起因すること、を見出している。最終年度の分析結果は、これらの結果と整合的であり、日本における正規から非正規、非正規から正規という職の移動がうまく起きていないという課題を指摘するものと考える。
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