研究実績の概要 |
本研究課題では、納税者による経済活動の補足の難しさに起因した税務執行上の課題を考慮した最適課税問題に取り組む。本年は研究課題に関連する経済実験に関する論文を書き上げ、ディスカッションペーパーとして発表した(A discount factor and the ratchet effect: An experiment, (2020), ソシオネットワーク戦略ディスカッションペーパーシリーズ第90号)。本実験では、エージェント(納税者に対応)の労働生産性に格差があり、かつプリンシパル(課税当局に対応)との間に生産性に関する情報の非対称性がある2期間経済を想定する。プリンシパルは初期に顕示された納税者の経済活動の結果から、生産性を類推し、2期目に契約(課税政策に対応)を提示し直す。この契約変更を織り込んだ労働生産性の高いエージェントは、自らの生産性を秘匿する誘因を持つ(ラチェット効果と呼ばれる)。本実験ではラボ実験の手法を用いてラチェット効果の存在を検証し、エージェントの割引率がその意思決定に影響を与えるかについて分析している。なお、本研究は立命館大学総合心理学部、森知晴准教授との共同研究である。本研究課題では主たる分析手法は理論分析を想定しているが、本研究は実証分析、特に経済実験の手法を用いたものである。理論分析とは異なる分析手法から研究課題を考察することで、本研究課題で示される研究成果がさらに広がりを見せることが期待される。現在、査読つき国際学術雑誌に投稿し、査読結果を待っている段階である。
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