研究課題/領域番号 |
20K13525
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
関根 篤史 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 講師 (70779066)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イールドカーブ / Nelson-Siegel / レジームスイッチングモデル / 状態空間モデル |
研究実績の概要 |
2000年以降、日本においては低金利の状況が続いている。本研究の目的は、Nelson-Siegelモデルを用いてイールドカーブの推計を行うことである。特にNelson-Siegelモデルの減衰ファクターに注目し、日本の低金利環境について分析を行った。これまでの分析では、日本のイールドデータを使って非線形推計法を用いてNelson-Siegelモデルの推計を行うと、減衰ファクターの推計値が時間を通じて低下していることが分かった。しかしながら、同様の手法を用いてアメリカとドイツ、スイスのイールドデータを使って推計を行ったとしても、減衰ファクターの低下は確認出来なかった。2021年度においては、日本におけるこの特殊性を分析するため、ベンチマークモデルとして、二つのレジームのあるレジームスイッチングモデルの推計を行った。このモデルでは、一方のレジームは減衰ファクターと債券利回りのボラティリティが低い低レジームで、もう一方のレジームは減衰ファクターと債券利回りのボラティリティが高い高レジームである。このモデルの推計から、日銀によるQQE以降、低レジームが続いていることが分かった。また満期までの残存期間が10年の債券の場合、低レジームの債券利回りの方が高レジームと比較して、タームプレミアムの下落を通じて約50ベーシスポイント低くなることが分かった。本研究ではさらに動学的Nelson-Siegelモデルの推計を行い、そして減衰ファクターショックに対する債券利回りとタームプレミアムのインパルス応答の分析を行った。分析の結果、減衰ファクターショックに対する債券利回りのインパルスはタームプレミアムの変動を通じて変動することが分かった。さらに減衰ファクターショックは、日銀による国債の保有のサイズや満期までの残存期間と相関していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、日本の月次イールドデータを使い、Nelson-Siegelモデルの推計を行った。レジームスイッチングモデルと動学的Nelson-Siegelモデルを用いて、Nelson-Siegelモデルにおける減衰ファクターに焦点を当てて、日本の低金利環境について分析を行った。この研究は小枝淳子氏との共同研究で、Journal of the Japanese and International Economiesに掲載されることが決定している。また、日本の日次イールドデータを用いてNelson-Siegelモデルの推計を行った。分析の結果、最近の減衰ファクターの低下が日本の非伝統的金融政策と関連していることが分かった。この研究については、財務省財務総合政策研究所発行のPublic Policy Reviewに掲載されることが決定している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、Nelson-Siegelモデルの減衰ファクターに注目をして、日本の2000年代以降の低金利環境について分析を行ってきた。この分析を通して、日銀による非伝統的金融政策によって減衰ファクターと債券利回りのボラティリティが低い状態が続いていること、減衰ファクターショックはタームプレミアムの変動を通じて債券利回りのレスポンスに影響を与えることを明らかにした。今後は、これまで培ってきた分析結果や手法を用いて、イールドカーブの分析を発展させていきたい。関連研究は、Nelson-Siegelモデルのイールドカーブファクターが為替レートや景気の予測に役立つことを指摘している。本研究においても、これまでの推計によって得られたイールドカーブファクターの推計値を用いて、為替レートや景気の予測を行っていきたい。
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