研究課題/領域番号 |
20K13526
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
山田 潤司 富山大学, 学術研究部社会科学系, 准教授 (10633993)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本経済 / 世代重複モデル |
研究実績の概要 |
本研究課題では開放経済の多世代重複モデルを用い日本の経常収支の分析と将来予測をすることを目的としている。多世代重複モデルでは、家計は代表的個人ではなく年齢ごとに分かれた個人から構成されるため、複雑なモデル設計が必要となる。それを開放経済体系に拡張するため、非常に煩雑な計算が必要になってくる。そのため、いくつかの段階を経て最終的な日本の経常収支の分析に取り掛かることになる。まず令和2年度は基本モデルの構築とデータの整備に取り掛かり、令和3年度は令和2年度のモデルとデータを使い実際にシミュレーション分析を行い、令和4年度は拡張モデルの検討を行うという計画になっている。 当該年度である令和2年度においては研究計画通り、基本モデルの構築とシミュレーションで用いる国際的なデータセットの整備を行った。加えて、この基本モデルの閉鎖経済版を用いて日本の経済・財政状況のシミュレーション分析にも取り組み、その成果を「多世代重複モデルを使った財政の維持可能性の検証」としてまとめた。この研究では、将来の人口分布や、生産性成長率を外生的に与えたうえで、将来の経済・財政状況をシミュレーション分析し、財政健全化のために必要な税率を計算した。その結果、生産性成長率が高まり、外国人労働者受け入れが進み、労働参加率が進んだ場合でも、政府債務対GDP比を安定的に引き下げるためには、大幅な税率の引き上げが必要であることが示された。現在日本の政府債務の対GDPは他の先進国と比較して突出した値となっており、今後の動向に注目が集まっている。そうした中、財政の維持可能性を分析することは日本経済を研究する上で重要な貢献といえる。こうした状況下で、最新の人口予測データを用いて将来の経済・財政状況を分析したことに本研究の意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は開放経済多世代重複モデルを構築し、日本の経常収支の決定要因と今後の動向を分析することである。この目的を達成するため、令和2年度は基本モデルの構築とデータの整備を行った。これは当初の研究計画通りであり、研究はおおむね順調に進展しているといえる。 基本モデルの構築では、既存研究で用いたモデルを開放経済に拡張し、国際債券市場と為替市場を導入した。これにより、従来の一国モデルでは対象となりえなかった対外収支や為替レートの動きが分析できるようになった。諸外国の経済成長率の動向が日本経済に影響を及ぼしたり、海外の経済状況により金利水準が変化したりするというこれまでの閉鎖経済モデルでは分析できなかった経済メカニズムが新たに生まれることになった。また税制や政府支出、政府債務、社会保障・医療制度などの財政制度を詳細にモデルに組み込んだ。日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国・ROW(rest of the world)からなる多地域モデル(multi district model)を構築した。 データの整備ではデータは日本についてはこれまでの研究で用いたものを使用する。従来の研究では2014年までのデータしかなく、直近のデータを含める必要があるため、新たなデータセットに更新した。海外の人口動態や生産性成長率、財政制度に関するデータについては新たに構築する必要があった。日米欧の主要国の人口や生産性成長率等のデータはそろっていたため、そのほかの国々の財政データや海外諸国の詳細な社会保障・医療関連のデータについて新たに構築した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は当初の研究計画通り、基本モデルの構築とデータの整備を行った。加えて閉鎖経済のモデルを使って日本の経済・財政状況のシミュレーション分析にも取り組んだ。今後も研究計画に従い研究を推進していく。 今後は令和2年度に構築した基本モデルと構築したデータを用いて実際にシミュレーションを行う予定である。これにより明らかになるのは、完全市場の仮定下における、国内外の人口構成・税率・社会保障制度・全要素生産性成長率等の変化が日本の過去そして将来の経常収支に与える影響である。ここまでの研究成果を論文にまとめ、国際専門誌に投稿する。 さらにその後は拡張モデルの検討を行う。令和2年度に構築した基本モデルでは、貨幣の存在を考慮せず、市場の完全性を仮定した。こうした仮定は、投資や価格、労働市場の調整が瞬時に行われる点について、現実的ではないという批判から逃れ得ない。そこで、貨幣や投資の調整コスト、価格の硬直性を基本モデルに導入する。この設定下では、企業が投資を行う際には何らかの追加コストがかかり最適な投資を瞬時には行えず、価格の改定も即時には行えないため、基本モデルよりも現実的な設定となっている。この結果も別の論文としてまとめ、国際専門誌に投稿する予定である。 追加的な研究として令和2年度に構築した基本モデルである開放経済の多世代重複モデルを用いて日本の経済・財政状況のシミュレーション分析にも取り組む。令和2年度に閉鎖経済下でのシミュレーション分析を行い、結果を論文の形でまとめたが、それを開放経済体系に拡張し分析を行う。これにより閉鎖経済下ではなかった為替や金利の変動が取り込まれることになるため、様々な新たな経済メカニズムが生じることになる。閉鎖経済モデルとの比較を詳細に行うことで、日本の財政維持可能性について新たな視点を提供することができるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、参加を予定していた学会がオンラインで開催されることとなった。そのため当初計上していた学会参加のための旅費が不要となり、支出計画を変更することを余儀なくされた。このことにより次年度使用額が生じた。当該研究課題では数値計算のために大型のパソコンが必要になるため、翌年度の助成金と合わせパソコンの購入に使用する計画である。
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