研究課題/領域番号 |
20K13539
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 篤史 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 助教 (40750435)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アジア銀流通 / 多角的決済 / 国際通貨システム |
研究実績の概要 |
本研究が申請時に予定していた海外資料館での一次資料の収集は、昨年度に引き続き海外渡航が困難であるという状況のため、十分に実施することができなかった。 一方で、すでに収集済みのデータを用いた実証分析を昨年度より進め、その結果を用いた研究論文を海外学術誌に投稿し、今年度(2021年6月)に掲載確定の結果を得た。単著論文「Asia's silver absorption through the triangular settlement system, 1846-1870」『The Journal of Economic History』, Vol. 82, No.2である。論文の目的は「アジアの銀吸収」の規模とメカニズムを、イギリス、インド、中国間の多角的決済に着目して解明することであった。第一に、イギリスやインドの貿易統計を整理分析した結果、1850年代初頭~60年代半ばにかけて大量の銀がイギリスから中国とインドに流入したことを数量的に示した。第二に、当該期に三か国の間では為替市場とブリオン市場の連携によって、二国間だけでなく、三国間で多角的に国際決済が行われていたことを、英国議会文書などを用いて明らかにした。第三に、その三国間決済システムの中でどのように銀貿易の裁定利益が生じていたのかを、アジア各都市の金融データを用いた現送点分析により検証し、復元された裁定取引の利益が、アジアの銀吸収の主要因であったことを証明した。すなわち、アジアの銀吸収はイギリスとアジア間の決済だけでなく、アジア域内の決済メカニズムに依拠していたという事実を解明し、西洋中心の通貨システムの発展という認識を修正する議論を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、海外渡航制限により海外資料調査は実施できていないが、オンラインで収集した資料や収集済みの資料を活用することで、実証研究を進めることができている。さらに、すでにその成果の一部を国際学術誌に掲載するという大きな業績も上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、滞っていた海外資料調査を時機を見て実施する。特に、イギリスの資料館における資料収集は本研究の完遂にとって必須となるため、確実に実行する方向で準備を進める。 すでに掲載確定した投稿論文では、いくつかの取り組むべき課題も浮上した。特に、アジアの銀貿易の基盤となっていた多角的な国際決済メカニズムは解明されながらも、その中で実際に為替取引や送金を実施した担い手の分析が必要不可欠であるという課題が残された。今後の研究では、この最重要課題に取り組むことに注力して進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に予定していた海外資料調査が実施できず、研究を進めるために必要な研究書籍の購入と、データ入力委託作業に研究費を集中的に投入したが、本年度の所要額をすべて使用することはできなかった。 来年度には残額を加えた研究費を用いて、最低でも1回の海外資料調査を実施する計画である。
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