研究実績の概要 |
本研究は1850年代から60年代のアジアの銀吸収の規模と流入先を統計的に把握し、その銀流通のメカニズムをアジア各都市の金融データの分析から解明することを目的とした。分析の結果、1850年代から1860年代末にかけて、大量の銀が主に西欧からインドと中国に輸入されたこと、またそのメカニズムは為替取引と銀の裁定取引をベースとした銀現送点によるものであり、さらにイギリス、インド、中国間の多角的貿易収支の調整にも効果を発揮したことが判明した。この成果は、国際誌Journal of Economic HistoryからAsia's Silver Absorption throuth the Triangular Settlement System, 1846-1870(単著論文)として2022年5月に公表された。 また、銀流通の担い手として為替銀行に着目し、その金融取引の実態を経営資料から明らかにすることも目的とした。19世紀のアジアで活動した代表的な為替銀行であったMercantile BankとChartered Bankの1850年代から1870年代の経営資料・バランスシートを収集し、そのビジネスの実態を数量的に分析した。その結果、それら銀行のアジア支店における活動の基盤はロンドン向け為替手形の割引による貿易金融であり、その為替取引を介してアジアの市場に銀を供給していた可能性が示された。 これら実証研究により、近代世界経済を支えた国際決済システムの形成におけるアジア経済の主体的役割に新たな光が当てられ、さらなる研究の必要性が高まったといえる。
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