研究課題/領域番号 |
20K13541
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
佐藤 淳平 岡山大学, 社会文化科学研究科, 講師 (50792496)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 財政 / 北京政府 / 広西省議会 / 予算 / 土地調査 |
研究実績の概要 |
従来の清末民初の財政史研究では、江蘇省や浙江省といった財政基盤が強い省と中央政府との関係が主として分析対象とされてきたことを踏まえ、2020年度は、財政基盤が弱い省と中央政府との財政関係について北京政府期の広西省議会文書の読解を通じて研究を進め、以下のような結論を得た。 広西省では、軍事費の増大を背景として省政府が1915年に土地調査と土地税の改革を開始した。これに対して省議会は省政府が主導する土地調査は増税を目的とするものであり、且つ袁世凱が施行した中華民国約法下で実施された違法な行為だとして、1916年10月に中央政府と国会に土地調査の結果を認めないよう陳情した。一方、省政府は土地調査は課税の公平性を実現するために行ったと主張し、北京政府財政部が提示した折衷案の受け入れを拒否した。 以上のような事例から元来財政基盤が弱く中央政府による補助金に頼る部分があった広西省では、省エリートの中央政府に対する態度は財政基盤が強い省と比べて融和的であり、増税により国家予算の地方収入を増やそうとする省政府の横暴を抑えるために調停を期待する相手であったと結論付けた。 この研究成果は、当初2020年6月27日に開催見込であった社会経済史学会第89回全国大会アジア・アフリカ史部会において「清末民初の後進地域における国家予算と地方予算―広西を事例として―」というタイトルで発表予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により大会は中止された。しかし、発表予定だった論考は同年9月に東京大学出版会より出版された拙著『近代中国財政史ー「外省」から「地方」へ』の第6章として採録し既に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には北京政府期の財政基盤が弱い省と中央政府との財政関係に関する論考を、拙著『近代中国財政史ー「外省」から「地方」へ』(東京大学出版会、2020年)に採録公表するなど一定の成果を上げることができたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により当初予定していた南京の公文書館における史料調査と岡山大学での研究会開催は残念ながら実施できなかった。現在は台湾の国史館所蔵のウェブ公開されている公文書や公刊史料を中心に分析を進めており、国民政府期の地方予算の編成過程に関する論考を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、まず現在準備中の国民政府期の地方予算の編成過程に関する論考を完成させるべく注力したい。本稿は1930年代の国民政府における主計制度の整備と地方での運用実態に焦点を当てたもので、国家財政と地方財政及び財務行政組織と主計組織の関係性を解明するものである。草稿は既に完成し学術雑誌に投稿中であるので、査読意見を踏まえて論考の完成度を高めていく。 2020年度に実施できなかった南京の公文書館における史料調査は新型コロナウイルス感染拡大の影響により未だ実施困難であるため、当面台湾の国史館所蔵のウェブ公開されている公文書や『歳計年鑑』『中華民国史档案資料彙編』などの公刊史料を中心に国民政府初期の軍事費抑制の動きについて分析を進める。ワクチン接種が進み新型コロナウイルスの感染が終息した後、中国での史料調査を順次再開する予定である。また研究会については対面での開催が難しい場合はZoomやTeamsを利用したオンラインでの開催も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により南京の公文書館における史料調査と岡山大学での対面型の研究会を実施できなかったため、次年度使用額が生じた。新型コロナウイルスの感染が終息し次第、南京の公文書館における史料調査を実施する。また岡山大学での研究会の開催は新型コロナウイルスの感染状況を見つつ、対面型とオンライン型のどちらで開催すべきか判断する。
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