本研究は,ヨーロッパ経済のグローバル化が進展した18世紀に,内陸ドイツ地域で海外輸入物産がどれほど,どのように流通し消費されたのかを,ザクセン地方の事例から明らかにすることで,辺縁のグローバル化を地域社会の日常生活レベルから見通すことを目的としていた。最終年度は,海外輸入物産の消費がどのレベルにまで進展していたのかを明らかにする予定であった。しかし,課題研究期間中はCovid-19の影響が続き,ドイツ文書館での新たな史料の入手ができない状況が続いたことから,予定を大幅に変更しつつ,研究を進めなければならなかった。 とはいえ最終年度は,ドイツ在住の大学院生をリサーチアシスタントとして調査協力者とすることで,いくつかの重要な史料をデジタル化し,分析することができた。具体的には,山岳農村地帯まで輸入コーヒーの消費が浸透していたことを示す史料である。 上記史料を,最終年度以前に分析を進めた価格関連記録や間接税徴収記録とあわせることにより,以下のことを明らかにした。(1)ザクセン地方における海外輸入物産の流通が18世紀後半に着実に進んでいったこと,(2)その背景として,同地方における重商主義的貿易・流通規制が商業都市の圧力のもとで緩められていったこと,(3)一方で農村部では,都市商人が求めた規制が行き届かず,闇取引や不正消費が横行したうえ,それが黙認されたことで規制がなし崩しになったこと。 以上の成果は,研究会や学会で日本語および英語による口頭報告をし(2020年度~2022年度までで4回),さらに英語論文として国際的に著名な経済史ジャーナル(Jahrbuch fuer Wirtschaftsgeshichte/Economic History Yearbook)に投稿,査読を受け,掲載されることとなった(掲載巻号は未定,掲載年は2023年以降である)。
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