研究課題/領域番号 |
20K13549
|
研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
武田 佑太 愛知淑徳大学, ビジネス学部, 助教 (70848556)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | フランス銀行 / 第三共和政 / 国家の介入 / 市場経済 / 農業融資 / 直接割引 |
研究実績の概要 |
当初の研究計画の進め方を若干変更し、同行総裁パランの全支店支配人宛て回状と、マルセイユ支店の経営実態を示す同支店考査報告書とを突き合わせた。この作業を通じて、同行の全体の方針が、支店経営にいかに反映されているかを検討した。同支店は、当時100以上存在した同行の支店の中でも常に最上位クラスの業績を残していたことから、同行全体の方針とその実行状況を明らかにする上で重要と考えた。 検討作業の結果、1881年末以降の共和派総裁期における直接割引を例にとるならば、以下の特徴を見出すことができた。直接割引とは、銀行以外の一般顧客による手形割引を指す。一般顧客にとっては、銀行を介するよりも安易な信用条件を意味している。ただし、考査報告書上では、一般顧客の中には銀行業を営む者も見られたことから、一般顧客と非一般顧客の厳密な区分は困難である。 まず、1881年末に総裁に就任したジョゼフ・マニャンの下では、この種の割引額は限定的であったとはいえ、長期の不況期にあって、同行の「義務」と位置付けられている。1897年から1920年まで総裁を務めた後任のジョルジュ・パランの下では、直接割引による割引料収入がマルセイユ支店の重要な収益源の一つとなり、そのなかでもフランス植民地を支払地とした直接割引が最大の比重を占めていたことを明らかにすることができた。なお、一般顧客とは別であるが、同支店の主要顧客の中には、アルジェリア不動産・農業銀行が含まれている。 パラン総裁期には、総裁による全支店支配人宛て回状の中で、農業経営者を含めた小営業へ直接割引を拡大することが「国益」にかなった業務であることが明言されていることから、同行における直接割引の役割を、収益拡大手段としての役割との違いを念頭に、今後突き詰めていく必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年初め以降の新型コロナウィルスの発生に伴う海外渡航の禁止措置により、本研究の中核作業であるフランスにおける現地資料調査が不可能となったため。 ただし、本研究の基礎資料を保管するフランス銀行文書館に依頼し、当該文書館の許可により例外的に、PDFの状態で保存された一部の資料の閲覧が可能となった。主要閲覧資料は差し当たり、同行の支店考査報告書である。そのほか、刊行文献の検討も行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、直接割引の役割を検討するため、他の支店考査報告書を検討していく。代表的な支店としては、マルセイユ支店と同じく、フランス銀行支店の中で最上位の業績を残していたボルドー支店が挙げられる。ボルドーは歴史的にワイン生産に必要なぶどうの主産地であったことから、同行の農業融資の方針と実態を検討する上で有効な対象と考えられる。そのほか、パランの回状の中で、直接割引が零細な経営者となるべきことが全支店支配人に通達されていたことから、今後、農業地帯に位置し、かつ全支店の中で業績において下位に位置する支店も選出し、その考査報告書を検討していく必要がある。 そのほか、現地資料調査が可能となり次第、当初の計画で予定していた資料(理事会議事録、農務省資料、本店・支店間の書簡、同行関係者の書簡・覚書)の調査を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年初め以降の新型コロナウィルスの発生に伴う海外渡航の禁止措置により、本研究の中核作業であるフランスにおける現地資料調査が不可能となったため。計画していた出張が不可となり出張費が使用不可となった。 コロナ禍は未だ終息していないが、引き続き、フランス銀行文書館へ遠隔による資料閲覧を依頼し、研究を続けていく。次年度使用額の使途については、刊行文献の購入、論文や学会発表のためのフランス語校正依頼費用、日本国内図書館所蔵の議会資料調査のための出張費、などを予定している(令和2年度の残額及び、令和3年度送金を受けた金額の合計において)。ただ、コロナ禍が終息次第、令和3年度において、従来の計画書通り、海外出張費、物品購入費の費目を使用することを予定している。
|