長野県下伊那で戦前から戦後にかけて日本屈指の組合製糸として活動した天龍社の経営内部史料を再整理・研究することに取り組んだ。最終年度は、これまで整理がまだ未完了であった天龍社資料の再整理・目録作成作業、文書箱の新調作業などを行った。最終年度の取り組みによって、天龍社資料の全体再整理作業が完了した。 また、最終年度はこれまでの研究活動を総括報告する試みの一環として、飯田市歴史研究所年報第21号に、天龍社資料についての文章「調査報告 天龍社資料」を掲載し、その概要を紹介するとともに、現時点で作成した目録のうち、資料10箱・約151点分の内容を掲載し広く閲覧できる状態にした。 最終年度はこれと並行して、長野県飯田・下伊那に存在する天龍社関連の周辺資料の調査にも取り組んだ。特に、飯田市中央図書館・上郷図書館に所蔵されている青年団資料を積極的に閲覧し、関連部分の撮影を行った。天龍社は、製糸業を営んでいるが、同時に労働運動やそこに勤める青年・女性たちが様々な自己表現や文化活動を行うものでもあったことがこれらの調査からは、天龍社という存在が同時期の長野県飯田下伊那の地域社会で果たした役割が単なる一製糸工場の域を超えていたことが明らかになった。 天龍社資料をより積極的に研究で活用するため、史料撮影も目録作成と並行して実施した。特に天龍社の戦後の企業活動を把握するうえで基盤となる、社報については現存するものすべての写真撮影を完了し、今後の研究の基盤を作ることができた。研究期間全体を通して、天龍社資料の性質を改めて調査目録作成という基礎作業を通して再検討できた。特徴としては、国の蚕糸政策などが常に意識されて経営が行われている点、労働者や養蚕農家などの直接的な製糸工場経営以外の史料も多数残されている点などがあげられる。
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