研究実績の概要 |
本研究ではファミリービジネスが、いかにして起業家的な活動を通じて事業変革し、レガシー(遺産)を大切にしつつ新たな成長基盤をつくるための方法論を検討した。同族の事業承継者が家業を引き継ぎつつも、新たな商品やサービスを開拓して事業変革を試みる事業形態をさすアトツギベンチャーに注目した。初年度(R2)は、サラスバシーが提唱する、熟達起業家の思考と行動様式であるエフェクチュエーションを検討。エフェクチュエーションを応用している東京大学の学生向け事業開発プログラムを調査し、雑でもいいのでアイデアを形にしたプロトタイプをつくり、早い段階から顧客や専門家と対話する重要性などを明らかにした。調査成果は書籍化(英語)したほか、国際学会が発行する起業家教育の年報(Annals)に寄稿した。日本で初めてエフェクチュエーションに特化した国際会議を企画し実現した(R4年3月)。 日本のアトツギベンチャーの現状を知るため、R3年度は建設業界のアトツギベンチャーなどを調査したが、R4年度は海外のファミリービジネスに焦点をあてた。米ビジネススクールでファミリービジネス理論について学んだうえで、イタリアの田舎町のアトツギベンチャーを調査した。ファミリービジネスは、必ずしも経済的な富の最大化を目指すのではなく、社会・情緒的資産(Socioemotional Wealth=SEW)が重要(Zellweger, 2017)で、戦略的意思決定に影響することが確認できた。 地域貢献はSEWの拡充につながるため、アトツギベンチャーが地方創生の担い手として期待できる。対話型組織開発(例えばAppreciative Inquiry)の手法やレゴブロックを活用したワークショップ(WS)は、家業のSEWの見える化に寄与する。コロナ禍でWSが実施できなかったので、今後はWSがアトツギベンチャー育成につながるか検証したい。
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