今年度はパスデータの分析システムの構築に従事し、アイトラッキングの予備実験で視線追跡データを取得、その分類と基本統計量の整理を行った。パスデータの分析システムでは過去の実験状況の相違から売場のマスターファイルが異なることで、店舗ごとに専用の消費者行動モデルを構築する必要性があった。今回、生成型のAIを導入することで顧客動線データに売場レイアウトの違いがあっても、共通した消費者行動を再現できることが示唆された。具体的には購買量の多い顧客は売場の外周を多く訪問する傾向があるが、そうした共通の構造を生成型AIで再現することが可能である。その過程において、内側エリアの詳細な構造の違いを条件変更で再現することには困難が伴うことがわかってきた。外周を訪問する典型的な動線が再現されやすい一方で、部分的かつ局所的に現れる内側エリアの訪問はレアなイベントであり、動線を再現するための特徴量を抽出し理解する必要がある。一方、アイトラッキングの予備実験では注視時間のばらつきを考慮した上で、広告レイアウトに対してt検定で平均的な注視秒数の違いを明らかにする研究を行った。実店舗の顧客動線データと違い視線追跡データは注視の持続時間が短くなる傾向があるため、実験では制限時間を設け、顧客心理の反映された明確な違いを観測するための実験条件について詳細を調べ、結果として今後の精緻な実験結果を得るための基礎的な条件を確認することができた。研究期間全体においては、既存のパスデータの分析に加え、最終年度に今後の研究発展を見据えたパスデータの分析システムおよび購買行動モデルの開発を進めた。顧客動線研究では新たに、フラクタル次元を活用した買い物行動の複雑性の指標化の研究に取り組み、改良KNNアルゴリズムを用いて、フラクタル次元と店舗内滞在時間に基づく購買行動の分類モデルを提案した。
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