職場では従業員が攻撃行動を起こしたり、対人関係から撤退したりするなどの行動を起こしがちであり、これらの行動を低減することが喫緊の課題である。なかでも、両行動に至る直前の否定的感情は怒りであることが多く、怒りの感情をマネジメントすることが、両行動の低減に有効であることが推測されるが、それらの両行動を低減するための具体策は検討されていない。近年、我が国の組織においては、怒りの感情をマネジメントするためにアンガーマネジメント(以下AM)を従業員教育に取り入れている組織があるが、その有効性については検討されていない。そこで、組織における従業員の攻撃行動や対人関係からの撤退を低減させるためのAMの受講効果を質的及び量的に検討した。 従業員の行動選択プロセスを検討するために、労働者25名にインタビュー調査を実施した結果、先行研究で明らかにされていた6つの行動選択プロセスの他、新たに対人関係からの撤退を選択する1つのプロセスが発見された。さらに、この7つのプロセスにおいて、AM未受講者は組織機能阻害行動、受講者は社会的行動を選択する傾向にあることが分かった。また、従業員に対してAM受講前後にアンケート調査を実施した結果、AMの受講が女性及び46歳未満の労働者の「他者への批判」を制御する効果があることが示唆された。本研究において、AMが労働者に与える影響を明らかにしたことにより、今後日本の経営組織において、より戦略的にAMを活用した人材育成が可能となるだろう。
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