研究課題/領域番号 |
20K13596
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
三浦 紗綾子 昭和女子大学, グローバルビジネス学部, 講師 (60711893)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 靴産業 / 靴選び / シュー・フィッティング / インソール / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、利害が一致した支援者を動員できても、経時的に企業家と支援者に利害対立が生じるメカニズムについて実証的に検討することである。分析対象は、1980年代~2000年代のドイツ式中敷き調整サービスの普及過程における小売・卸の協力関係の構築とその解消である。 本年度は上記過程の背景となる2つのコンテクストを分析した。一つ目は靴産業という広いコンテクストである。成果は論文として発表した(三浦、2020)。二つ目は、ドイツ式中敷調整サービスと直接的に関係する限定的なコンテクストである。こちらは論文を執筆中である。 広いコンテクストの分析から、靴産業では、消費者だけでなくメーカー・小売においても靴合わせの知識が乏しく、誤解に基づく靴選びが行われてきたことが明らかになった(三浦、2020)。靴合わせや足の健康に知識・関心がない状況は、ドイツ式中敷き調整サービスの普及を目指した企業にとっては非支援的な環境といえる。当該サービスは、技術的にも認知的にも新しいもの、すなわちイノベーションで、非好意的な環境を克服しなければならなかったのである。イノベーションの推進過程を研究する本研究にとって、分析対象事例は適切であることが確認できた。 靴産業一般とは異なり、靴産業の周縁では、足の健康意識を高めようとする運動が生じていた。1985年に登場したシューフィッター(以下、SF)によって、足の健康への関心が高められつつあった。SFの活動が、ドイツ式中敷調整サービスの出現と普及に影響を与えたことが明らかになった。SFによってもたらされた足の健康意識の高まりはまた、より手軽な中敷き調整方法の普及を後押しした。小売りによる加工を伴わない既成インソール市場が拡大したのである。同市場の出現というコンテクストは、ドイツ式中敷調整サービスの普及過程に影響したと思われる。このような重要なコンテクストを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症により遅れた部分はあるものの、別の部分を代わりに進めたので、全体として順調に研究が進んだといえる。 計画より遅れている部分は、インタビュー・データの取得である。コロナ禍により、出張することが難しかった。加えて、外出自粛・旅行自粛によって靴産業が影響をうけるなか、靴卸や小売店にインタビューを依頼するのは難しかった。 しかし、書籍、新聞・雑誌記事など公表資料の分析を先取りして行って、研究対象事例をとりまく2つのコンテクストの分析を進めた。広いコンテクストの分析結果は論文として発表し(三浦、2020)、狭いコンテクストについても論文を執筆中であり、論文の公表という点では当初計画より進んでいる。 以上を総合すると、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
利害が一致した支援者を動員できても、経時的に企業家と支援者に利害対立が生じるメカニズムについて実証的に検討するという研究の方向性に変わりはない。ただ、既成インソール市場の創発過程を新たに分析対象に含める。本年度(2020年度)に実施したコンテクストの分析から、SFによる健康意識の高まりというコンテクストが、ドイツ式中敷調整サービスの普及を後押ししただけでなく、既成インソール市場を創発させたことが新たに明らかになった。それ故、既成インソールという隣接市場が、ドイツ式中敷調整サービスの企業家と支援者の関係に与えた影響についても、分析対象とする。 今後展開する作業は、2020年度に明らかにしたコンテクスト上で、企業家と支援者がどのように行為したか調査・分析することである。そのための具体的作業は次の4つである。 第一に、2020年度は難しかったインタビューをできるだけ進める。それによってイノベーションの推進に携わった企業家・支援者たちの意図を明らかにする。第二に、事例を分析・整理するための理論研究を進める。第三に、研究の中間成果を国際学会で発表しフィードバックを得る。第四に、フィードバックに基づいて、国際誌への投稿論文を仕上げていく。 いずれも同時並行的に進めるものの、インタビューと理論研究、学会発表の準備をまずは進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ禍で学会やインタビューなどの出張ができなかったため、次年度使用額が生じた。 2021年度には、2020年度に実施できなかった分のインタビューを可能な限り行う予定である。また、2020年度の調査で新たに明らかになった既成インソール市場についての追加調査や分析に費用がかかる。この費用は当初計画にはなかったが、出張旅費が減って次年度使用額が生じた分をあてる。
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