本研究はデジタル時代の組織文化、特に近年議論が活発になりつつあるデジタル文化資本という概念に着目し、企業が有するデジタル文化資本がICT投資成否に与える影響について明らかにすることを目的とした。これまでの先行研究において、マクロレベルでのICT投資の正の影響については合意が形成されつつある一方、ミクロなレベルでどのような組織がICT投資を成果に結びつけているかについては統一的な見解が得られていない。そこで本研究では日本企業に対する大規模サーベイ調査を実施し、現代の企業経営に大きな影響を及ぼすICT投資の成否を左右する組織的要因について探求を実施する。組織のデジタル文化資本を定量的に評価するために、本年度は東証上場企業全社に対して質問紙調査を実施した。そこでは先行研究において蓄積されたデジタル文化資本の理論モデル・測定尺度を元に、デジタル文化資本そのものの測定に加えて、デジタル技術を活用した新しい働き方であるハイブリッドワークへの組織的制度的取り組み状況やそれを支える人事制度に関わる実践状況等、デジタル組織に関わる様々な組織要因に関するデータを蓄積した。また、本調査対象サンプルは全て上場企業であるため、財務データなど企業の属性情報を各種データベースから収集し、本研究で取得したサーベイデータとそれら公開情報を結合することで本研究独自のデータセットを構築した。過去年度の上場企業向けサーベイ調査とも合わせて、デジタル組織文化に関わるパネルデータセットを構築を実施した。また、サーベイによる定量的なデータの把握と並行して、事例調査も実施した。それら定量・定性両面のデータをもとに、デジタル文化資本と企業パフォーマンスの関係性を分析し、ICT投資成否を左右する組織要因についての考察を深めた。
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