最終年度の本年は、これまで取得してきた日本のバー文化に関するデータをまとめ研究のアウトプットを進めた。具体的には、19世紀末に西洋から輸入されて以来、独自のスタイルを確立し、Japanese Bartendingとして世界的に認識されている日本のバーテンディングを積極的に変革しようとする若手バーテンダーの実践に焦点を合わせ、「伝統」と「革新」テーマに論文の執筆を開始した。意識的に受け継がれてきた信念や実践としての「伝統」という制度化された環境下でそこに関わる人々が、これまでの伝統の価値を大きく損なうことなく、どのように新しい価値を創り出すかを一つの事例を通して明らかにすることは、本研究課題の問いに対する一つの回答である。論文の執筆と並行して、必要な追加データの取得を国内および、昨年より延期してきたアジア以外の海外にて実施した。執筆に際して、Society for the Advancement of Socio-Economicsのannual conferenceでの口頭発表、Academy of managementのpaper development workshopにてその草稿を発表した。その際得られたフィードバックを取り入れ、フルペーパーを書き上げ、Advances in Strategic Managementの特集号「Tradition as Resource or Constraint for Strategic Action」に投稿した。論文では、「伝統」概念を過去に関連する何らかの具体的な対象に還元する傾向にある既存研究の問題点を指摘しつつ、伝統の実践的側面を捉え、「境界の架橋」、「規範の侵害」、「領域の拡張」という特徴的な逸脱行為を通して、これまでの伝統を踏襲しつつその意味や価値をずらしていく実践について記述した。本論文は条件付きにて採択された。
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