研究課題/領域番号 |
20K13636
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
根建 晶寛 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (60739225)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 包括利益情報 / リサイクリング / 研究開発投資 / アナリスト予想 / 株主価値 |
研究実績の概要 |
グローバル化が進んだ現代社会に属する企業は、市場変動を考慮する包括利益情報に対応しながら経営を行うことが求められる。この研究では「その他の包括利益構成要素からのリサイクル後、どのように資本市場と対話をすれば研究開発投資を高めることができるか」「当該投資はアナリスト予想や株主価値に寄与するか」という明らかにしたい2つの学術的な問いを設定している。こうした問いに対して、従前の財務会計の実証研究で活用されている統計的手法に縛られず、新たなアプローチを用いて実証研究を行い、企業の競争優位を獲得する経路の一端を明らかにすることを主目的としている。その他の包括利益の構成要素をリサイクリングの額にまで踏み込んだ実証研究の蓄積は国内外でほぼ皆無であり、学術的な創造性が大きい研究となりうる。 目的を達成するため、問いに対応する関連研究を調査する必要がある。欠かせない作業は、関連研究や新聞記事等を構造的に整理することである。令和2年度には、「その他の包括利益がアナリスト予想に影響を与えているか」、「当該利益の構成要素がリサイクルされる状況はどのような場合か」を理論的な予測、実証的検証に基づいて観察した研究の一部を熟読した。他方、NYダウ30などの代表的な指数銘柄である米国企業の実証研究を行い、日本企業の検証結果と比較することを将来的に考えている。令和2年度は、当初の研究計画であったデラウェア州会社法の調査を開始した。同州の会社法や法制度に関する実証研究を調査することで、日本企業が価値創造しやすい理想に近い制度設計を考えることができるからである。申請者は、他州と相対的に比較し、同州の会社法に基づいて設立された企業の売上改善や企業価値の代理変数であるトービンのqが高いことを明らかにした海外の主要関連研究をレビューした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的を達成するため、国内外で蓄積されてきた包括利益に関する実証研究、アナリスト予想に関する先行研究を整理することが大切である。従前の先行研究を整理することで、すでに検証されている内容の精査をできるだけでなく、大きな研究テーマの中のどの分析視角で検証しているか確認することができる。レビューは、自身の研究領域のどこに着目し、どの種の研究に対する貢献をはかるかを考える上でも重要である。 包括利益に関する先行研究は利益情報と株価に注目した研究が主流であるが、近年は株価でなく、アナリスト予想や企業行動に注目した研究も存在する。ただし、後者の研究蓄積の歴史はあさい。現在までに「包括利益が株価に与えた影響」「経営者予想とアナリスト予想との関係を検証した研究」「アナリスト数の大小や企業規模の大小が株価や企業価値、予想精度にどのような影響を与えているか検証した研究」の整理をある程度できている。また、最終的な成果を提出する時に使用する財務データの一部年度の取得はできている。 しかし、現段階では大きく以下の課題が残っている。①先行研究や関連研究の蓄積が不足していること、②分析サンプルが大規模にわたっておらず、将来的に検証結果の妥当性を担保するために増加させる必要があること、③重回帰分析以外の財務会計の実証研究で使われてこなかった新しいタイプの検証方法(パス解析や潜在推移分析等)の学習をより精力的に行う必要があることである。④米国の株式市場や米国会計基準、デラウェア州を中心とする会社法や企業の無形資産の実態(研究開発費と人件費の個々の企業の関係が「正」か「負」かなど)を観察しきれていない。 特に新規性を提示するには③と④は重要であるが、新しいタイプの統計的検証に関する学習やソフトの使用方法、米国の会社法の調査をするのに時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
残された研究課題をクリアし、今後研究を加速していくにあたって、先行研究上のレビューをより深く掘り下げる。とりわけ本研究は、国内企業が包括利益表示の影響を受けてアナリスト予想の修正及び株式市場の反応がどう変わったかを観察するのみを目的としていない。日本企業のその他の包括利益に関する組替調整額の実態、実証研究を行うアプローチだけでなく、企業をとりまく制度的環境や米国企業との相対的比較も念頭に置いている。 ①企業行動(R&D等)の契機としてその他の包括利益が何らかの源泉となりうるか。②周辺の諸制度がいかなる企業(R&D等)行動を促しうるか。 ①については、日米企業のその他の包括利益、その構成要素が当期純利益に振り替えられる状況や経営者の動機を先行研究や関連研究、新聞等を通して深く理解する。特に先行研究で書かれている研究者の解釈に注目する。①で使用予定の変数については、現在、一部の年度のみの変数を得られている状況であるため、継続的な取得作業をすすめたい。 ②は、わが国と異なる会社法制度に属する米国企業の特徴や法制度に影響されうる株式市場の傾向を深く考察する。仮に会社法規定が企業と投資家間との情報の非対称性を緩和する場合、その背景には、当該法規制が企業経営者の義務履行や投資家保護の度合いを変更を促すかもしれない。②で使用予定の変数については、証券会社が公開開示している「外国証券情報」に米国企業の設立準拠法が紹介されている。資料をみて手作業での情報を収集する。米国企業の主要な指数であるNYダウ30から調査を開始し、どの州の会社法を適用しているか、NYダウ30に組み込まれている企業のForm10-KのCONSOLIDATED STATEMENTS OF COMPREHENSIVE INCOMEを確認するとどういう特徴があるかも丁寧に追い、法制度や企業の具体的行動の変数を収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究期間の1年目である。日本学術振興会に科研費申請した内容は,会計関連書籍と事務用品の執行予定となっている。申請当初は研究をすすめる上で有益な書籍や実証研究の書籍等を購入するつもりであった。しかし,読み慣れていない領域、つまり外国の会社法関連研究のレビューとそもそも本研究では従前の財務会計研究の方法論上の限界を克服することも念頭においており,新たな手法の学習等も必要で理解が難解である。不慣れな手法を学習するため,他分野(例えば心理学等)の手法を自学したりする必要もあった。色々回り道をしてしまい,財務会計のどういう書籍を購入するべきか予算執行を具体的にすすめることに慎重になり、予算執行しにくい状況であった。同時期にコロナ対応による講義準備や家庭事情(妻の出産や育児等)が重なり,当初計画より研究の進捗が遅れてしまったことも主な理由としてあげられる。
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