研究課題/領域番号 |
20K13637
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
澤井 康毅 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (60784379)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 企業結合会計 / 財産評定 / 83条時価 / 公正価値 / 実験 |
研究実績の概要 |
2022年度の目的は、債権者に対する公正・衡平な権利分配の実現、事業再建の成功という視点から、財産評定の妥当性を評価することであった。 財産評定における「時価」は、企業結合会計の資産評価規定を間接的に参照して規定されている。企業固有の観点に基づく使用価値から、市場参加者の観点に基づく市場ベースの「公正価値」への転換により、資産の評定額は従前よりも平均的に高くなることが想定される。債権放棄額が小さくなれば、債権者には更生法を申し立て経営者を交代させるインセンティブが生じ、それが経営者のモラルハザードを緩和することが期待される。しかし、安易な債権放棄が認められないと、更生可能性は低下する。財産評定に期待される諸機能のトレードオフを調整するためには、市場ベースの「公正価値」のみならず、企業固有の評価を認めることに意義がある。この点、米国Chapter11における財産評定に比して、企業固有の評価を行う余地を残すわが国会社更生法には理があると考えられる。以上の知見は、『會計』に成果としてまとめた。 また、前年度までに検討した「「公正価値」とは何か?」という主題について、実験を行っている。「公正価値」に関する異なる定義条件、特定の価格情報条件(使用価値>再調達原価>正味実現可能価額)を与え、被験者が非金融資産に係る価格情報をどのように調整して「公正価値」を算定するか検証した。その結果、現行の市場ベースの「公正価値」定義を与えられたグループにおいて、使用価値情報が最も重視され、最も高い評価値が得られた。基準設定主体は、かつての企業固有の定義条件のもとで懸念された、「主観のれん」が評価額に混入するという問題を回避するために市場ベースの定義を設けたと思われるが、実験結果は基準設定主体の意図に反するものとなった。以上の暫定的な成果は、『ITEC Working Paper』にまとめられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度、2021年度は、非金融資産を対象として、企業会計上の「公正価値」概念がどのように変化してきたか、「公正価値」と財産評定に係る「時価」がどのような関係にあるかを分析した。それらを踏まえ、2022年度は、債権者に対する公正・衡平な権利分配の実現、事業再建の成功という視点から、財産評定の妥当性を評価した。 これまであまり考慮されなかった会計学の視点から、会社更生に係る財産評定を分析し、資産評価のあり方が会社更生にもたらす帰結を論じるという本研究課題の目的は一通り達成できたと考える。 しかし、更なる精緻な検討、実証分析も可能であると判断し、補助事業期間を延長している。そのため、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
企業会計における「公正価値」と財産評定に係る「時価」との関係性、資産評価規定が事業再生に及ぼす経済的帰結について、追加的な検討、実証を行う予定である。 2022年度に行った実験研究については、手法や解釈を精緻化したうえ、海外ジャーナルへの投稿を視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の補助事業期間に予定していた学会や研究会等が、コロナによりオンライン開催となり、出張費が生じなかったため。 残額については、主に学会出張、英語論文の校正、投稿等に使用する予定である。
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