2023年度は、減損会計基準を題材として、収益性の低下した固定資産を、市場ベースの「公正価値」により評価する米国基準の論理的妥当性を検討した。検討の結果、米国基準は、収益性の低下した固定資産への再投資を擬制しているが、当該資産が最有効使用の状態になければ、このような擬制は不合理であることを示した。むしろ、現況の使用方法を継続するのであれば、企業固有の使用価値による評価が合理的であり、この結論は、米国の減損会計基準が投資家にとって目的適合的でないという実証研究とも整合的である。以上の知見は、『會計』に成果としてまとめた。 研究期間全体を通じ、財産評定とその原型となったSFAS141号、および現在の米国企業結合会計基準の関係、また、財産評定の妥当性を明らかにした。 会社更生法に係る財産評定と、その原型となったSFAS141号は、固定資産について「剥奪価値」に基づく評価をすることに共通点がある。「剥奪価値」に基づく評価は、意思決定有用性とともに、債権者間の利害調整を果たす機能を持ち、財産評定にも適用が可能であった。棚卸資産の評価についても、SFAS141号と財産評定の規定は同等である。ただし、利害調整目的を重視する財産評定には、企業固有の見積りを行う余地が比較的存在し、この点、市場ベースの「公正価値」を規定する現在の米国企業結合会計基準との間には、乖離がみられる。この乖離は、最終年度に検討したように、固定資産の収益性低下局面で顕在化する。また、債権者に対する公正・衡平な権利分配の実現、事業再建の成功という視点からは、米国のChapter11に比べ、企業固有の見積りが可能なわが国の財産評定に理があることを示した。
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