研究課題/領域番号 |
20K13638
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤山 敬史 神戸大学, 経済経営研究所, 講師 (00756463)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 従業員 / 労使交渉 / 情報開示 / 株価反応 / 利益平準化 |
研究実績の概要 |
本研究課題は次の4つのプロジェクトから構成される。すなわち、①人員削減のアナウンスメントと株価反応、②労使交渉における情報共有、③人件費のコスト行動、そして、④労働法制と利益平準化である。 ①では、希望退職および早期退職の募集およびその結果の適時開示に対して株式市場がどのように反応するのかについて分析を行った。分析の結果、募集に対して退職者が過剰である場合、短期的に株価が低下し、長期的に企業業績が低下することを発見した。 ②では、労使交渉において労使間でどのような情報が共有されるのかについてあきらかにすることを目的としている。本年度は、経営改革が行われた企業へのインタビューを行った。企業規模が小さく従業員が企業全体の状態を把握しやすかったからか、詳細な会計情報ではなく、要約利益が用いられていることがわかった。 ③では、親会社について人件費を開示しているという日本企業の特徴を活かして、人件費のコスト行動を分析した。人件費を単価と人数に分解した分析を行った。その結果、人件費の粘着性が観察され、特に従業員数の粘着性が人件費の粘着性に影響を与えていることが発見された。一方、単価についてはかならずしも粘着性が観察されなかった。 ④では、労働法制と利益平準化の関係性に対して配当がどのような影響を与えるのかについて国際比較分析を行った。まず、米国企業を対象に労働組合と利益平準化の関係を分析した先行研究と整合的に、労働者保護の強い国の企業はより利益平準化を行うことを発見した。さらに、配当を行っている企業についてはこの関係性が強まることを発見した。次に、配当平準化と労働者保護の程度との関係性を分析し、労働者保護の程度が強い国の企業はより配当平準化を行っていることを発見した。さらに、かならずしも頑健ではなく初期的な分析として、利益平準化と配当平準化が代替的であることを示唆する証拠を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①人員削減のアナウンスメントと株価反応、③人件費のコスト行動、および、④労働法制と利益平準化については当初の計画通りに研究を実施している。それぞれのプロジェクトにおいて分析を進めているところであり、一定程度の分析を終えることができた。 一方、②労使交渉における情報共有については当初の計画に対して進捗が遅れている。当該プロジェクトのメインはインタビュー調査であるが、コロナ禍のため、調査先とのコンタクトのきっかけ作りやインタビューの実施が難しい状況であった。当初想定していた企業ではないがインタビューを行ったが、当初想定していた企業へのインタビューは実現していない。
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今後の研究の推進方策 |
①人員削減のアナウンスメントと株価反応、③人件費のコスト行動、および、④労働法制と利益平準化についてはこれまでの分析をより頑健なものにしていくとともに、論文として形にしていく予定である。また、研究会や学会で報告するなど、他の研究者からのフィードバックを得ながら、より研究の質を向上させていく。 ②労使交渉における情報共有については、引き続き、人的交流が困難な状況であるが、インタビュー調査に向けて準備を進めていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、計画していたインタビュー調査や学会参加のための旅費等への支出が行えなかったことが大きな要因である。インタビューが可能な状況になれば実施を模索する。
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