研究課題/領域番号 |
20K13639
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
呉 懿 立命館大学, 経営学部, 助教 (40830211)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | accoutning conservatism / LASSO / brand equity / ownership structure / accounting standards / passive ownership / Bank of Japan |
研究実績の概要 |
今年度では主に三つの研究プロジェクトを進めている。一つは株主構造と会計上の保守主義に関する論文である。会計情報の品質はその国の会計基準の規律を受けるだけではなく、その国における資本市場の成熟度(新興国か発展国)、企業の資本構成、株主構成及び租税体系にも影響される。この研究は株主構成(Ownership structure)に着目し、日本企業が置かれている独特な経営環境が会計上の保守性に与える影響を考察した。取引関係や株式保有関係の安定性を目的とする政策保有株式が日本企業に固有の株主構造として有名である。 今年度は、分析方法の精緻化を図りつつ、コーポレートガバナンスと情報の非対称性で異なる視点から株主構造による影響を検証した。つまり、政策保有株式が高い企業においては、株主によるモニタリング機能が低下し、コーポレートガバナンスが弱体化してしまう可能性がある。その結果、経営者による裁量的な利益調整が増えると推測される。一方、金融機関をはじめとする関連企業が当該企業の株式を保有している場合、財務情報以外に企業の経営に関する情報を入手するチャンネルがあると考えられる。その場合、情報の非対称性が悪化する可能性がある。ただし、経営者の交代、あるいは社債市場で融資する企業、M&A直前の企業におかれましては、情報の非対称性を低下させ、より保守的な会計手続きを採用すると推測される。株主構造を中心に会計上の保守主義の決定要因とその経済的帰結を確認した。 今一つは執筆中の論文はPassive ownershipと保守主義の関連性を検証するもので、FMCG 2021 Conferenceで発表した。三つ目はマーケティングの先生と共著した論文で、コロナ災いを媒介とし、ブランドエクイティが財務情報に与える影響を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題は順調に進展している。日本においては、取引する金融機関と密接な関係を保つ慣行があり、金融機関自体が安定株主になっている可能性もある。また、株主の構成も米国とは異なり、企業間取引を強化させるべく、長期的協力関係を重要視する株主が多い。したがって、経営者の経営方針ひいては適時な会計情報の開示を強く求めないと推測される。しかし、経営方針の透明性を求める企業文化あるいは経営者はより保守的な会計手続きを採用し、情報の非対称性を低下させるインセンティブがある。分析の結果、政策保有株式の比率が高い企業のうち、経営者の交代がある企業、社債を発行している企業は保守性の程度が高くなることが判明された。言い換えれば、情報の非対称性が高い企業ほど損失を適時に開示していることによって、会計情報の品質を確保しようとする。現段階では、この論文を修正し、再投稿している。 Passive ownershipと保守主義に関する共著論文を国内と海外で一回ずつ発表している(発表者:国内-共同発表;海外-共著者)。現在は参加した先生方のご意見に基づいて、修正中である。分析方法を改善しつつ、頑健性テストを追加していく予定である。マーケティングの先生と共著した論文は一回目の査読が終わっており、すぐに修正し、今月中に再送する予定である。株式の持合比率をはじめとする株主構造が会計上の保守主義に与える影響に関する論文を校正に出し、再投稿した。情報の非対称性を測定するのに必要なデータを整理しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
①次年度にpassive ownershipに関する共著論文を投稿する予定である。 ②株主構造が会計保守主義に与える影響をコーポレートガバナンスと情報の非対称性の両方から計測してみる。 ③検証方法は従来の定量的分析のほかに、定性的分析方法との併用も試みる。 ④マーケティング、ファイナンスと管理会計分野の先生と協力し、保守主義及びその他財務会計における基礎概念を応用し、研究の可能性を広めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在執筆中の論文は追加のデータが必要となっている。データの提供先は二つあり、一つは幹事証券会社、格付けに関するデータとなる。一括購入で約30万円で購入できると見積もっている。今一つは企業のCSR及びPR方針に関するもので、例えば、SNSなどを使って積極的に情報提供をしているかどうか、あるいは当該企業のCSRがどのように評価されているのかに関するデータとなる。こちらは購読する必要があり、年間70万円ほどかかると試算している。
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