研究期間全体を通じて、次のような成果を得ることができた。まず初年度においては、Basu(1997)によって提案されたモデル(Basuモデル)による日本企業の条件付保守主義の計測結果に関して、CFOの非対称性、コストの下方硬直性、および、カーテイルメントの3つが及ぼすバイアスを調べた。その結果、これら3つの要因の中で、とくにCFOの非対称性とカーテイルメントが深刻なバイアスをもたらしていることを示唆する証拠を得た。続く、第二年度には、Basuモデルの問題点を指摘した研究を整理することに加え、Dutta & Patatoukas (2017)によるモデルに基づき、Basuモデルのバイアスの有無を調べ、彼らが開発したSCV尺度を用いた条件付保守主義の計測を試みた。その結果として、まず期待リターンの大きさが条件付保守主義の計測結果にバイアスをもたらしている可能性を示す証拠をえることができた。さらに、SCV尺度による計測では日本企業の条件付保守主義を米国企業のようには計測できない可能性があることを示す証拠とを得た。最終年度には、初年度と第二年度に実施した研究をふまえて、次の研究を行った。まず、先行研究で広く用いられているBall et al. (2013)によるBasuモデルの修正方法が有効であるかどうかを調べた。その結果、日本企業の条件付保守主義の計測においては、Ball et al. (2013)による修正だけではBasuモデルのバイアスを補正するためには十分ではなく、Collins et al. (2014)で提案されたアクルーアルモデルを考慮する必要があることをを示す証拠を得た。また、CFOの非対称性の重要性をふまえ、それがBasuモデルを応用して開発された条件付保守主義の尺度(C-Score)に与える影響を調べた。
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