研究課題/領域番号 |
20K13646
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研究機関 | 亜細亜大学 |
研究代表者 |
積 惟美 亜細亜大学, 経営学部, 講師 (50824223)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 繰延税金資産 / 経営者の裁量 / 利益調整 / 経営者バイアス / 経営者の自信過剰 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,経営者バイアスが繰延税金資産の回収可能性判断に与える影響を実証的に検証することであるが,とくに経営者の自信過剰(Overconfidence)バイアスに焦点を当てて研究を進めている。研究初年度となる2020年度では,新型コロナの影響により,学会や研究会の多くが中止となり,研究報告を行い,本研究課題の拡がりを検討するうえで有益なコメントを十分に受けることができなかった。しかし,当初の研究計画書にもとづき大きく3つのことを実施した。 第1に,関連する先行研究の収集・整理である。経営者の自信過剰という個人的特性が企業の投資・財務活動,および会計利益に与える影響に着目した研究は,ファイナンスを中心に大きく発展してきている。そこで,学術的貢献を担保するためにも関連する先行研究を幅広く収集し,当該バイアスの測定方法の検討や新規性が高いと考えられる研究課題を整理,導出することに努めた。 第2に,データベースの構築である。経営者の個人的特性である自信過剰は,その特性より代理変数の作成が比較的難しい構成概念である。上記の先行研究の整理により明らかになった代理変数に必要なデータの確認・取得を行い,データベースの作成を行った。今後も必要に応じてデータを随時取得していく予定である。 第3に,論文の執筆活動である。上記の研究課題の整理を通じて導出し,本研究課題における前提となる繰延税金資産の回収可能性判断と会計的・実体的利益調整に関する研究の雑誌投稿を行っている。また,関連する検証課題について,2回の学会報告を行い,本研究課題を検討するうえで有益なコメントを多数頂くことができた。頂いたコメントをもとに修正を行い,1本の査読付き学術誌における掲載を予定,2本の査読無し学術誌での掲載(うち1本は掲載予定),1本のワーキングペーパーへの登録を行っている。さらに,3本の論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況は,概ね順調である。当初の研究計画書では,研究初年度において,関連する先行研究の収集と整理,および経営者バイアスの測定を行うためのデータ収集を予定していたが,どちらも滞りなく進展している。また,本年度において本研究の基礎・前提となる論文1本が査読付きではないものの学術誌に掲載された。くわえて,当該テーマと関連する論文の執筆を4本行い,査読付き学術誌に1本,査読無し学術誌に2本が掲載予定となっており,残りの1本はワーキングペーパーとして登録しており,今後査読付き学術誌に投稿予定である。さらに,繰延税金資産の回収可能性判断に対する投資家(債権者)による評価に関する論文を1本,経営者の自信過剰が財務報告にもたらす影響に関する研究を2本執筆中である。 一方で,当初日本企業において特徴的な経営者業績予想制度を利用することで,経営者バイアスを測定することを予定していたが,データ分析の結果,現状測定の妥当性がそれほど高くない可能性がでてきた。この点については,モデルの精緻化を踏まえ慎重に対応していく予定である。また,テキストマイニングによる経営者バイアスの測定においても,測定の対象となるテキストについて日本においてコンセンサスのとれたものがないことが判明し,実施が困難になる可能性があると考えている。この点については,他の経営者の自信過剰の代理変数を複数用いることで対処する予定である。この意味において研究進捗に一部支障が生じている可能性があるが,これは研究課題全体に影響を及ぼすものではない。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降の研究活動として,データベースの構築と研究課題の分析・執筆を予定している。まずは,データベースの構築については,先行研究の整理の結果,必要なデータを特定している。したがって,先行研究の整理をもとにデータベースの構築を行っているが,まだ入手できていないデータについても,今後データベースの構築作業を進めていく予定である。 研究課題の分析・執筆については,繰延税金資産の回収可能性判断における経営者の自信過剰がもたらす影響に関する研究を中心に進めていく予定である。当該研究課題について執筆次第,学会報告を行い,頂いたコメントをもとに修正し,査読付き学術誌に投稿する予定である。 ただし,関連する先行研究の整理の結果,とくに日本において,経営者の自信過剰を中心とした経営者バイアスが財務報告全体に与える影響に関する実証的証拠の蓄積が必ずしも十分でないことが判明した。このことは,繰延税金資産の回収可能性判断と経営者バイアスの関係性を検証するうえでの前提が十分に明らかになっていないことが示唆され,また財務報告に関する研究上,繰延税金資産よりも注目度の高い事項についての研究の余地が残されていることを意味する。したがって,2021年度以降の研究においては,繰延税金資産と経営者バイアスとの関係に関する研究を進めつつも,財務報告全般に対する経営者バイアスの影響についても注目していくことを予定している。 また,現時点においては,経営者の自信過剰が財務報告にもたらす影響に関するレビュー論文,および経営者の自信過剰が会計利益に与える影響に関する論文,繰延税金資産の回収可能性判断に対する投資家(債権者)の評価に関する論文計3本を分析・執筆中である。執筆が終わり次第,ワーキングペーパーへの登録,学会や研究会での報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルスの影響により報告を予定していた国内外の学会および研究会が中止もしくはZOOMでの遠隔開催となった。そのため,予定していた出張がなくなったことが理由の一つである。また,学会や研究会の中止により研究課題の遂行に必要なデータベースの選定や統計的分析を行うためのソフトウェアの決定が当初の予定より遅れたため,当該必要経費が2021年度以降となった。さらに,共同研究者とのデータベースの購入・利用計画により次年度以降にデータベースを購入する方が良いと判断した。ただし,データベースやソフトウェア購入の遅れは全体の研究計画に影響を及ぼすものではない。また,先行研究の整理により,日本の制度的特徴に即したデータベースを構築するために必要なデータを変更する必要性がでたため,次年度以降に購入予定である金額が増加している。 次年度は,今年度に研究計画に必要であると特定したデータベースやソフトウェアを順次購入していく予定である。
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