研究課題/領域番号 |
20K13649
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
塚原 慎 帝京大学, 経済学部, 講師 (90806374)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 資本会計 / 負債と持分の区分問題 / 転換社債 / 自社株買い / 優先株式 / 裁量的行動 / リキャップCB |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,負債と持分の比率を裁量的に調整する経営者行動(裁量的資本調整)の決定要因及びその経済的影響を解明することにある。令和2年度における研究業績は,次の通りである。 第1に,先行研究をレビューした上で,検証すべき論点の提示を行なった。具体的には,①裁量的な資本調整行動(負債比率増加型・負債比率減少型の資本調整行動)の動機に関する論点整理,②裁量的な資本調整行動(負債比率増加型の資本調整行動)の実施効果に関する論点整理であり,その成果を2本の論文として公表した。これらの検討を通じ,当該研究領域に関する研究進展度合いを確認するとともに,研究蓄積を行うことの重要性を確認することができた。 第2に,データベースの構築と実証的な検証の実施である。実証的な検証を行うためには,企業が行う特定の資本政策を追跡し,検証可能なデータセットを整備することが必要であり,その一部に手作業を必要とする。年度の前半においてこれらの作業を行った上で,検証を実施した。 第3に,検証結果の発信・公表である。本年度はまず,③特定の裁量的な資本調整行動の決定要因を実証的に調査し,研究論文(ワーキング・ペーパー)として公表した。続いて,④裁量的な資本調整行動(リキャップCB)が証券市場に及ぼす影響について実証的な分析を行い,研究成果を論文として公表した。なお,これらの検証に関しては,国内の学会・研究会で研究報告を行うプロセス(日本会計研究学会,日本経済会計学会,グローバル会計学会)を経ており,③については引き続き査読誌への投稿に向けた検証の修正を行なっている。 また上記以外の研究課題に関連する研究成果として,学会報告を1回,研究論文3本を公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に掲げていたデータセットの構築を行うことができ,実証的な検証課題を2つ実施し,報告することができた。また,先行研究や実態調査に基づいた論点整理を行うことで,当初対照的・並列的なものとして設定していた「負債増加型」と「負債減少型」の資本政策に関するそれぞれの背景を深掘りすることができ,双方の資本政策の背後にある経済的動機について,記述的に整理を行なった研究成果2本の公表につながった。 実証的な検証に際しては,手収集データも含めたデータセットを構築し,研究計画書に掲げていた2つの研究課題(負債増加型の資本調整の決定要因,当該資本政策実施の経済的影響)に取り組んだ。また,研究成果の発信に関して,コロナ禍に伴う国内外への出張規制があったものの,国内の学会に関してはオンラインでの開催となったことから,積極的な発信を行なうことができ,学会の参加者から有益なフィードバックを受けることができた。 以上より,本研究課題に直接的に関わる研究成果として,国内での学会報告,ワーキング・ペーパーを含む公表論文が存在することから,当初の計画をやや上回るペースで,順調に研究が進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の進捗に伴い,企業が裁量的な資本調整行動を行う背景には,経営者の心理的特徴が作用する可能性が想定できるようになってきた。ここから,当初の計画に掲げたような「経営者の私的利益最大化」を前提とした裁量的な資本調整行動を想定することに加えて,行動経済学的観点を取り入れ経営者の心理的特徴を描写する研究成果から得られた知見を活用しながら,「経営者の自信過剰」などの心理的特徴が資本調整行動に作用する可能性について検討を行っていく。 上記を実施するためには,経営者の心理的特徴と経済的行動の関係について論じる学術的文献を入手し,体系的なかたちで整理することが必要であるため,これを実施する。 また,負債増加型・負債減少型の資本調整は必ずしも対照的・並列的なものではないことが明らかとなったことから,本年度は負債増加型の資本調整を中心とした検証を行なった。次年度は負債減少型の資本調整行動に関しても,実態調査・実証分析を進めていく。 研究成果の発信に関して,2020年度はコロナ禍の状況もあり,国外への発信を行うことができなかった。研究成果を相対化するためには,国内のみならず,制度的・文化的な背景の異なる海外の研究者からのフィードバックが必要となる。そこで,英語論文の執筆を行い,海外に向けた成果の発信を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的流行を原因として,対面式の学会・研究会が開催されなかったため,研究出張を行うことができなかった。他方,学会報告や他の研究者との交流は非接触形式・オンライン型でなされることとなったことから,テレワーク形式での研究活動を行うことができるよう,必要に応じて物品の購入を行なった。 次年度に関しても,引き続き国内外における移動は制限されることが予想されるため,当初計画していた研究報告目的の海外出張を行うことはできないと考えている。一方で,大学研究室を拠点とした研究活動は通常通りに行うことができると見込んでいる。そのため,研究に必要なデータベースの取得,統計的な検証を効率的かつ迅速に行うことができるよう,備品の購入を計画している。
|