研究課題/領域番号 |
20K13650
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
調 勇二 東洋大学, 経営学部, 准教授 (50821930)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 統合報告 / 実体的利益調整 / ESG / リアル・エフェクト / 短期志向 |
研究実績の概要 |
本研究は、統合報告の導入がどのような経済的影響を及ぼしうるのかを明らかにすることを目的としている。近年、日本を中心に統合報告の自発的な導入が国際的に進みつつあるが、自発的な統合報告の経済的影響に関する経験的証拠の蓄積は未だ十分ではない。統合報告の導入は企業に対して新たなコスト負担を生じさせるため、その効果について経験的証拠を提示することは社会的にも意義深いといえる。それゆえ、本研究では、統合報告の自発的な導入に対して積極的な我が国上場企業を対象として、統合報告の導入効果を実証的に検討する。 本研究によって得られた今年度の成果は以下のとおりである。令和4年度は、主に統合報告の導入によって導入企業の実体的利益調整行動が変化するかについて検証している。実体的利益調整は、企業が実体活動を変化させることによって利益数値を操作する行動を指し、企業価値への悪影響が懸念されている。研究の結果、統合報告の導入は、異常営業キャッシュフローの上昇、異常製造費用の低下、そして実体的利益調整の全体水準の低下と関連していることが示された。これらの分析結果は、統合報告導入後、企業による実体的利益調整が抑制される傾向にあることを示唆している。また、統合報告導入直後においては、統合報告導入企業と非導入企業の間に実体的利益調整の程度に有意な差はないものの、導入後時間が経過すると、統合報告導入企業の実体的利益調整の程度は非導入企業よりも小さくなっている。この分析結果は、統合報告が内部意思決定の継続的改善プロセスであるという実務家の見方と整合的である。非財務的側面については、追加分析によって統合報告の導入が環境・社会・ガバナンス(ESG)のパフォーマンスと正の相関があることが示された。今年度は、研究成果の一部が海外査読付きジャーナルに採択され公開された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
統合報告導入の経済的影響に関する検証を進めており、研究成果の公開も進みつつある。ただ、COVID-19の流行に伴い、当初予定していた学会出張等が困難となった結果、旅費等の執行に支障が生じている。今年度は学会出張等も実施可能であると見込まれており、研究計画の大幅な修正は必要ないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、学会報告等を通じて既に実施している分析の精緻化および研究成果の公表を進める。とりわけ、企業内部の意思決定への影響については租税回避行動の観点から、外部者の利用可能な情報への影響については利益公表後ドリフト(PEAD)の観点から分析を進めることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行に伴い、当初予定していた学会出張等が困難となった結果、旅費等の執行に支障が生じている。加えて、研究課題に関する企業へのヒアリング調査についても実施の見通しは立っていない。これらの理由により、とりわけ旅費の計画額と執行額に差額が生じた結果、次年度使用額が生じた。学会出張については参加見込みが立っており、代替案についても並行して検討している。
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