研究課題/領域番号 |
20K13659
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
井上 謙仁 近畿大学, 経営学部, 講師 (60825511)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際財務報告基準 / IFRS / 経営者報酬 / 純利益の押し上げ効果 / のれんの非償却化 / 利益に対する報酬の感度 / 相対的業績評価 |
研究実績の概要 |
本課題は、IFRS適用が経営者報酬契約に与える影響についての証拠を得ることを目的としている。日本企業によるIFRS適用はのれんの非償却化を生じさせる。これが原因となり、IFRSを単に適用するだけで、日本企業の純利益は押し上がる可能性がある。この純利益の押し上げ効果で、経営者報酬の決定における利益情報の有用性が変化している可能性がある。本研究の目的を達成するために、今年度は、IFRS適用が相対的業績評価に与える影響について実証分析を行った。また、本研究の遂行に不可欠である関連研究もあわせて行った。 Holmstrom(1982)の理論にもとづけば、経営者にコントロール不能なノイズを除去するために、同業他社の利益が自社の経営者報酬の決定に利用される可能性がある。この相対的業績評価では、他社の利益は自社の報酬と負の関係を有することが想定される。IFRS適用企業に対する分析の結果、IFRS適用前に他社の利益と自社の報酬にはそもそも関係が確認されないことが示された。これは、IFRS適用企業では、同業他社の利益が自社の報酬契約に利用されていないことを示す結果である。関連研究では、日本企業全体で他社の利益と自社の報酬の正の関係が示されている。これらの結果は、日本企業では、そもそもHolmstrom(1982)型の相対的業績評価が利用されていない可能性を示している。 さらに、IFRS適用で、同業他社の利益と自社の報酬の関係にはどのような変化も見られなかった。これは、日本基準の利益とIFRSの利益が経営者報酬契約で同様に扱われていることを示す結果である。2000年代以降、日本基準とIFRSのコンバージェンスが進められ、日本基準とIFRSの会計基準の差異は少なくなっている。純利益の押し上げ効果という現象が存在するものの、これらの基準の間では利益情報の有用性に差がないことが示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、IFRS適用の相対的業績評価への影響についての分析を実施し、これについての証拠を得ることができた。また、関連研究での成果は、IFRS適用についての研究のデザインに示唆を与え、研究を前進させた。研究成果は、学会や研究会等の発表、および論文の執筆や公表等で成果を共有している。2020年度で得られた成果については、雑誌への投稿の準備を進めている段階にある。そのため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、これまでの研究を精査して、リサーチ・デザインの改善や、分析結果の頑健性について確認する。また、論文のブラッシュアップも行い、学会や研究会等での発表や雑誌等での公表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度と同様に、コロナ禍を理由として、学会や研究会等がオンライン開催となったために次年度使用額が生じた。これらの費用については、次年度での学会や研究会の参加費用に充てる。また、新たな機材やデータベースを購入することで、研究成果をより洗練させるために使用する予定である。
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