本研究は、フランスにおける旧植民地出身移民とその子孫が、多様なアクターの集まる社会運動の空間で、権力関係を超えた「(政治的)連帯」ないし「連合」を実現する可能性/非可能性を、調査協力者とのアクション・リサーチ型研究から明らかにすることを当初の目的とした。しかし、2020年以来の新型コロナ感染症の流行下で現地調査の実施が叶わないなかで、①「連帯」ないし「連合」に関わる分析の理論面での精緻化を目指すと同時に、②二次資料(および可能になった場合の質的調査)を用いての「マイノリティ化された知をめぐる抵抗」の分析を副次的な研究目的に据えた。②に関しては、先行研究の収集と分析から、「マイノリティ化された知をめぐる抵抗」の中心的争点として、「人種」と「インターセクショナリティ」概念をめぐるフランスの学問的・政治的状況を整理してきた。 最終年度である2023年度は、まず①に関して、国際ジェンダー学会の「国際移動とジェンダー」分科会における研究報告とその討論を通して(2023年10月29日)、フランスの事例から、最も周辺化されたマイノリティが社会運動に参加するための契機を、運動空間のあり方自体を問う「予示的政治」に着目し、「対抗的公共圏」の概念を批判的に援用することで、広く社会運動に関わる概念の理論的な発展可能性を示唆することができた。また、②に関しては、前年度末3月にパリ近郊で実施した研究者や運動家へのインフォーマルな聞き取りと、パリ第8大学・LEGS研究所に所属する研究者らとの「マイノリティの知」をめぐる共同研究から、旧植民地出身移民の子孫である当事者が担う移民/マイノリティ研究とジェンダー・セクシュアリティ研究の交差における「脱植民地的転回」の要素として、複数の契機やアクターの存在を掴むことができた。この研究成果は、2024年度9月に開催される国際ジェンダー学会で報告する予定である。
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