研究課題/領域番号 |
20K13678
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
井上 慧真 帝京大学, 文学部, 講師 (10823156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 若者支援 / 高校中退 / 生徒指導 / 移行 / トランジション / 社会関係資本 / 教員文化 |
研究実績の概要 |
本年度は、新型コロナ流行等の事情により面接調査が困難となったため、高校中退の危機に直面している生徒に高等学校がどのようにかかわってきたのか、そして教育現場での実践は教育委員会、文部省(現文部科学省)の施策とどのような連続性および差異を持っていたのか、今日に至る政策形成過程の分析に比重をおくことになった。高校中退に関する教育行政の対応は複雑な道のりをたどったが、その過程について井上(2021)において詳細な分析を行った。井上(2021)の調査・分析の過程では、高校教員による高校中退の危機にある生徒への指導をいかに行ったか、また他の教員と指導方針をめぐっていかなる葛藤があり調整されたかを『月刊生徒指導』を中心とした資料から分析した。議論の焦点になったのは、教務内規に定められた要件や手続きをどのように解釈、運用するかということであった。たとえば問題行動を繰り返した生徒であっても、その生徒の「かくれた一面」に着目し、もう一度機会を与えてやってほしいと教員が働きかけた事例においては、「無期停学」という処分を下しつつ、実際には処分期間中も教員たちによる登校指導や家庭訪問等細やかな指導が行われ、結果的に生徒は卒業に至ることができた。しかし他方で、教務内規を機械的にあてはめることで生徒の事情を斟酌せずに自主退学勧告を行う学校もあとをたたず、各校の組織文化が色濃く反映されていた。また、このような運用をめぐる議論は、不登校生徒等にもきょうつうしてみられるものであった。そして中退を防ぐための働きかけについても、困難事例についての報告が多くなされ教員の責任をどこまでとするのかについて議論が交わされていた。このような「指導」をめぐる教育現場の1970年代半ばから1990年代までの状況が現在とどの程度連続的であるか、秋期に高校教育の研究集会等にて報告、討論を行う予定であり、また学会でも報告予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度については、研究成果は前年度から継続して取り組んできた資料収集と分析が結実したかたちとなった。いっぽうで、高校中退に関して先進的な取り組みを行っている高校、教育委員会への調査についても、今年度は研究成果として公表することはできなかったものの、研究論文を準備中である。調査協力機関への確認等を行ったうえで、研究成果を公表する予定であり、当該年度はその準備にあてることができたという点では進展がみられたと評価した。また海外における高校中退者への支援についても文献収集、調査が進展して居り、研究成果を公表することを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に井上(2021)としてまとめた研究をさらに進展させ、現在の高校中退者の支援に関する調査・分析と接続させることを目指している。また、高校中退に関して先進的な取り組みを行っている高校、教育委員会への調査についても、今年度は研究成果として公表することはできなかったものの、研究論文を準備中である。調査協力機関への確認等を行ったうえで、研究成果を公表することを目指している。また海外における高校中退者への支援についても文献収集、調査の結果にもとづいた成果報告をおこないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
面接調査等が新型コロナの流行により延期になったため、当該年度に行う予定であった研究計画の一部が次年度に繰り越された。このため、旅費等の経費を次年度使用額として計上することになった。
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