最終年度(2023年度)において2つの研究業績を完成させた. 第1に,移動中の相互行為構造のなかで家族規範がどのように現れてくるのかに焦点を当て研究を進めた.東日本大震災の被災地にて,子どもに地域学習させる取り組みを調査した.そのなかでも,その取組を実現させるための「下見」において,放射線を測量しながら現地を調査する場面を分析した.その場面に先立って,参与者は計画をたて,下見をしながら現地調査をおこない,実際の場面をシミュレートする.とくに,下見中,突然放射線の線量計が鳴るケースがあった.その場合,参与者は,まわりの環境を観察しながら,なぜ線量が上昇したのかを推論する.環境に対する認知の変化がどのように相互行為の中で起こるのかを分析し,書籍の一部として出版した. 第2に,研究期間中にコロナ禍が発生し,研究遂行の必要上,共同で研究を行った.コロナ禍において,人々の相互行為構造に変化が生じ,対面的相互行為に替わって代表的な手段となったのがオンラインコミュニケーションである.須永と共同研究者の菊地洸平,七田麻美子は,東日本大震災の被災地にて再生可能エネルギー事業に取り組む企業とともに,オンライン企業研修のデータを集め分析した.研修中,しばしば研修内容に対する不満の兆候,あるいは不信感が研修参加者から示されることがある.そのような問題の処理を,オンラインコミュニケーションのなかでどのように勧めていくのかを分析し,その知見は『認知科学』に雑誌論文として掲載された. 研究期間全体では,診察場面における医師患者の相互行為において,悩みをどのように吐露するのかを分析した論文,質問のデザインの中に他者の痛みに対するどのような理解が現れているのかを分析した論文など,順調に業績を公開する事ができた.コロナ禍で新規の調査件数が著しく減ってしまったが,他方で,既存のデータの分析を深め,執筆に専念した.
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