2023年度の研究実績として、次の2点が挙げられる。 第1に、近畿北部地域でのフィールドワークを実施し、2023年8月頃から本格的に議論の始まった「日本版ライドシェア」の先行事例から、特に地方部でのモビリティ確保策に関する知見を得ることができた点である。主たる供給主体である市民・住民に対して、官民アクターがいかなる後方支援や「伴走」を行っていくべきか、運営主体へのインタビュー調査を通じて明らかにした。とりわけ昨今のライドシェアの議論では、都市部での導入に関する政策論議に終始しているが、養父市「やぶくる」ではタクシー事業者による運行管理等の協力、京丹後市「ささえ合い交通」ではNPO会員外も巻き込んだドライバー確保、というインプリケーションを導出することができた。これらの知見は、バスやタクシーの供給が困難な地域におけるモビリティ確保策として提示することができる。 第2に、「住民バス」に関わるドイツでのフィールドワークを実施し、日本の地方部での自家用有償旅客運送などのボランティア輸送の運営方策に関する知見を得たことである。今回の調査では、2017年に調査を実施したノルトザクセン郡アルツベルク町に加え、フォクトランド郡バートエルスター町でも住民バスに関わるインタビュー調査を実施することができた。とりわけ、アルツベルクでは交通空白地におけるバスやタクシーの代替的なサービスである一方、バートエルスターでは、運輸連合のバスサービスの一つ(系統番号も付与されているなど)位置付けられ、同じ「住民バス」でも実施地域によってその性格や官民アクターの関与の方法が異なることがわかった。こうしたドイツでの取り組みは、日本における自治会運営バスや自家用有償旅客運送などとも比較可能であり、今回得られた知見をもとに、地域交通政策における官民・市民連携研究へと発展させていくことが期待される。
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