研究課題/領域番号 |
20K13692
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
板倉 有紀 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (70732353)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高齢者 |
研究実績の概要 |
広義における「災害」などのリスク問題とジェンダー、さらに高齢化の接点にある問題として、現在進行中のコロナに関するリスクを念頭におき、文献研究を行った。東日本大震災以降の国内外の研究をふまえて、インターセクショナリティ概念が、上記のような接点にある問題を分析するのに適した概念であるという気付きを得て、研究面だけではなく教育面でも関連する議論を中心に行ってきた。個人は様々な社会的属性を帯びるため、ジェンダーなどの単一概念では、たとえば、高齢でありかつ女性であるという個人を捉えきれないという認識論的課題がある。複数の社会的属性が交差(インターセクション)する個人と災害時のニーズという新たな理論的視点について着想を得た。文献収集を行い、災害社会学におけるインターセクショナリティの位置づけや、リスク問題との関連などについて、文献研究を継続している。 経験的な問題としては、昨今、世界を支配する「コロナ」という非知のリスク問題は、災害現象との共通性が強いことは明白である。以前より行ってきた認知症などの高齢期疾患は、広義における様々な「災害」において、高齢女性のヴァルネラビリティを先鋭化する。この観点から、被災地における認知症カフェの取組状況が、コロナという新たなリスク問題が浮上する中で、どのような弊害を受けているか情報を収集した。被災地の長期的な存続の問題においても、高齢化する女性のニーズへの応答は不可避である。このような問題関心から、高齢女性の疾病予防や疾病の進行防止において、サロン的な集まりの場の重要性や、そうした場がコロナというリスク問題から受けている影響について、考察を深め、研究会等で報告した。当初計画していた津波被災地における女性支援の支援者側からみたニーズの検討や、フィールド調査を今後継続するためにも、広義のリスク問題として現行のコロナ問題への考察は一定の意義があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、岩手県や宮城県における高齢女性支援の支援者側に対するインタビュー調査を念頭においていた。けれども、調査先として本研究が計画していたのは行政の医療従事者(保健師)、サロン活動などを行うNPOである。いずれも、コロナ問題から業務上大きな影響を受けている層であり、具体的な調査実行は、当面の間困難である。団体や組織によっては他県からの来訪を一律的に受け付けていないのが現状であるし、オンラインでのインタビューなどの方法があるにしても、コロナ問題に関するトラブルに見舞われやすい高齢者支援関連のインフォーマントには調査依頼を控えている。 さらに、本研究が対象としている「高齢女性」は、少なくとも変異ウィルスの問題が出てくる以前は、「コロナに対して最も脆弱な層」の一部であり、東北圏内であっても自由な往来を避けざるを得なかった。中でも岩手県は相対的にコロナのリスクを抑え込んでいた時期があったため、一時期感染拡大に見舞われた福島市からの来訪は困難であった。2021年度からは変異ウィルスの問題が出てきたため、未だに余談を許さない状況であり、他県への往来は困難である。 そのため、当初計画していた調査を行うことができておらず、さらに今後も行う目途が立ちにくいという意味で、「やや遅れている」と評価する。 とはいえ、研究実績の概要でも述べた通り、「インターセクショナリティ」に関する文献研究を進めていること、広義の災害としてのコロナのリスク問題をふまえて認知症と診断された高齢女性のニーズ対処について被災地を念頭におき情報収集をおこなっていること、これらの問題関心を基に研究報告を行っていることなど、現状の社会情勢でも可能な研究は実施できている。 そのため、完全に「遅れている」という評価ではなく、「やや遅れている」という評価にした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)インターセクショナリティ概念を念頭にいれた文献研究:本研究はジェンダー概念から被災した高齢女性のニーズ対処を、保健福祉面から考えるというものである。しかし、ジェンダーという単一概念だけでは捕捉しきれない側面、つまり「高齢である」「疾患を抱えている」といった側面があるのも事実である。これらの複合的な社会的属性を分析する視点としての「インターセクショナリティ」概念について文献研究を進める。具体的には、被災地における認知症などの高齢期疾患を抱えた高齢女性の問題を捉えるために、上記の研究を進める。成果は「災害支援におけるインターセクショナリティとジェンダー」という見出しで、研究論文としてまとめ、社会学関連の学術誌に投稿する。 (2)高齢女性のニーズの探索的調査:コロナ問題の収束状況に依存するが、岩手県ならびに宮城県、さらに研究代表者が2020年より所属している福島大学がある福島県において、被災後の高齢女性のニーズについて探索的な調査を行う。まずは、NPOなどの組織団体の担当者に対して高齢女性の支援の実態について教えていただくべく、簡易なアンケート調査を実施する。アンケート調査を踏まえて、福島市の近隣市町村(宮城県南部、福島県内)において半構造化インタビューに協力いただけそうな担当者に対し、より細分化したインタビューを実施する。既存の枠組みからニーズを把握するというよりも、被災後10年を経て、「支援者側」からみた高齢女性のニーズがどのように変化してきたかについて、様々な視点や意見を聴取することを目的とする。さらに、それらのニーズについて、保健福祉の専門職との連携可能性についても、事例をふまえて、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ問題という不測の事態が生じたことから、当初予定していた旅費、人件費は使用していない。コロナによる重症化をしやすいとされる高齢者への支援をテーマにした研究であることから、高齢者自身への面接調査は行えていない。さらに、その支援者側として当初念頭においていた行政保健師や福祉関連のNPOなどの調査対象者はコロナ対応でこれまでにないほどの激務であり、調査を依頼できる目途はたっていない。 2021年度は、アンケート調査の実施において印刷費や郵送費、また、福島市近隣市町村(宮城県南部、福島県内)へのインタビューにおいて旅費を使用する見込みである。
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