研究課題/領域番号 |
20K13694
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
税所 真也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (60785955)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 任意後見制度 / 身上監護 / 財産管理 / 生活支援 / 看とり / 社会化 / 地域包括ケアシステム / 地域福祉 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,高齢社会における家族のあり方について,日本と中国の高齢者の財産管理を比較しながら分析することである.そのために,高齢者の財産管理を支える手段のひとつである任意後見制度に着目し,日本と中国で成年後見制度がいかに利用され,任意後見制度がどう運用/適用されているのかをフィールドワーク調査を通じて検討する.成年後見を分析する際の分析基準となるのは,社会学の領域で精錬されてきた「脱家族化」「専門職化」「脱専門職化」「社会化」等の概念であるが,これらの分析概念を用いつつ,日本と中国における成年後見制度の運用と展開を捉えていこうとするものである. 本年度は,新型コロナウィルス感染症拡大防止の観点から,中国でのフィールドワーク調査を実施することが難しい状況だったので,国内の成年後見制度の運用を,とくに任意後見制度を主軸として支援するNPO法人を調査対象とした事例研究を行った.これは人生の最期の段階において,直接の介護行為にはあらわれない,生活上の諸課題を,任意後見の利用を通して解決していく事例として扱った.そして,ケアの調整や管理といったケア責任にまつわる家族役割が,任意後見制度の利用を通して社会化されていくこと,最期まで住み慣れた地域で暮らし続けるため,任意後見が身元保証や看とりのあり方を地域で支える仕組みとして機能することを発見した.こうした支援が重要なのは,任意後見を通して,従来家族や親族に頼らざるを得なかった領域を,地域で支える生活支援の方法として扱うことを可能にするからである.このように,地域包括ケアシステムを構築する上で,任意後見の担い手としてNPOや生協が地域に存在することは,成年後見の社会化の内実を捉える上で,重要な意味をもっている.以上の,生活支援を通した成年後見の意義と可能性に関する考察を,国際社会学会ISAフォーラム(世界社会学会議)で報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を遂行していくため,日本と中国の双方でフィールドワーク調査を実施し,成年後見制度の利用事例について,インタビュー調査から収集する計画であった.具体的には,日本ではNPO法人が取り組む成年後見の実践に焦点をあてたフィールドワーク調査を実施すること,中国では上海市や西安市などで中国の家族へのインタビュー調査を実施する予定だった.さらに,本研究成果は,ブラジルのポルト・アレグレで開催されるはずの国際社会学会(第4回世界社会学会議)や中国で開催される国際シンポジウム等をはじめとした,国際的な場で発信していくことを計画していた. 以上の計画に対し,中国でのフィールドワークや中国での国際会議等への参加など一部は,やむを得ない事情で見送らざるを得なかったが,日本でのフィールドワーク調査,およびその結果を国際社会学会(第4回世界社会学会議)で報告するという計画については達成することができた.よって,おおむね順調に進展していると評価することができる.
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症による渡航自粛にともない,国外でのフィールドワーク調査は実施することができず,この点で,すべてが当初の研究計画通りに進んだとはいえない.世界的な感染症の拡大は依然進行中であり,国外での計画については次年度も改善できる見込みは少ないと考えられる.よって,次年度についても,今年度と同様に,国内での調査に絞って任意後見の運用事例について,NPO法人を対象としたインタビュー調査を実施する,あるいは,インタビュー調査の実施や対面での学術交流は控えるといった,当初の研究計画を柔軟に修正しながら対応していくことが求められている.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大防止にともなう影響で,ブラジルのポルト・アレグレで開催される予定だった国際社会学会(第4回世界社会学会議)がオンラインで開催されたこと,また中国で予定されていたフィールドワーク調査や国際会議への参加が一切なくなったことから,旅費として計上していた予算を執行することができなくなったため.
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