高齢社会における家族のあり方を,日本と中国の高齢者の生活について比較しながら分析することが,本研究の課題であり,とくに任意後見制度に着目し,当制度が日本と中国で同制度がどのように運用/適用されているのかをフィールドワーク調査を通じて明らかにすることを目指した.本事業の研究期間2020年度から2023年度のうち,2020年,2021年度は新型コロナウィルスの感染症拡大防止のため,国内での調査も難しい状況であったが,国内調査に関しては2022年度に入ってから精力的に実施することができた.結果として,任意後見制度を中心にした市民後見を支えとすることによって,高齢者が家族資源に頼ることなく,最期まで住み慣れた地域で生活すること(Aging and Dying in Place)の理念を成年後見を通して実現できる可能性があることを事例検討を通して明らかにした. 具体的には,(1)士業専門職後見人にはできないこと,市民後見人だからできることがあり,それを可能にしているのは,人生の最期を支えることを第一に考え,そのために必要な生活支援をおこなうとする市民後見人の考え方にあること,(2)ただしこの支援は簡単なことではなく,市民後見人の支援には無制限になり易い傾向がみられること,(3)無限の支援とならないよう,支援を限定しないというやり方を通して折り合いをつけ調整していること,である.これにより,市民後見人による支援の優位性と市民後見人による支援ゆえの支援の難しさの両方をあわせて論じた.現在,高齢化と個人化により,身元保証・居住支援・死後事務等に社会でどう対応していくかが注目されている.本事業で得られた知見は,これらの新しい社会課題の解決に向けた取り組みに直接つながるものである. 事業最終年度となる2023年度はそれまでの国内調査で得られた知見を中国および台湾の3つの国際シンポジウムで報告した.
|