研究課題/領域番号 |
20K13703
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
松崎 良美 東洋大学, 社会学部, 助教 (00822157)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会調査 / インクルージョン / 情報保障 / リテラシー / 障害者 / 高等教育 |
研究実績の概要 |
今年度は、3つの観点から研究を推進した。まず第一に、実際に障害のある調査者を対象としたヒアリングを実施し、調査時にどのような工夫が行われ、またどのような課題が持たれているのか、という観点から検討し、アシスタント養成時の留意点や配慮すべき事項の整理を行った。 第二に、昨年度に引き続き、高等教育機関で社会調査を実践することを目指す障害学生への支援を想定し、実践的な検討を行った。まず、支援者が必要と考える「社会調査における支援」像を同定し、①調査者の主体性と②社会調査の遂行の二つの観点から、アシスタント養成場面で何が課題となりうるのか、ワークショップなどの介入プログラムを組み込み、その効果とそのうえで持たれる課題を整理した。特に、前年度に得られた成果を反映させる形で、実際のアシスタント養成の場でどのような知識、実習の機会の提供が求められるのか評価した。 最後に、学術的情報が、点字や手話など伝達形態を代えて伝えられる場合、伝達形態の持つ特徴に由来して、どのような伝わりやすさ・伝わりにくさが発生しうるのか、RARA(Reasonable Accommodation of Reading Accessibility)調査を前年度より継続して実施した。特に、質的な分析を通じて、情報のアクセシビリティにおいて留意が必要な点を整理した。本調査の結果から、特に日本語で書かれた学術的なコンテンツにおける情報のアクセシビリティでは、漢字が果たす役割の大きさが示唆された。障害のある児童・生徒の漢字教育の現状や課題を整理することが、現行の高等教育機関における情報のアクセシビリティの課題の再評価につながると考え、情報のアクセシビリティの実践についても具体的に提案をすすめていくことができるよう、ポイントの整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19感染拡大の影響を受け、調査推進に一部影響を受けたが、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒアリングなどを通じて、障害のある調査者とその支援を行うアシスタント間での意思疎通を充実させ、目的設定を行うことが、円滑な調査実施の要となりうることが改めて整理されたが、高等教育機関で社会調査そのものを初めて学ぶ障害学生およびアシスタント学生が、調査全体の見通しを以て意思疎通を含め情報共有、目的設定を行っていくことには、一定の難易度がありえる。次年度は、高等教育機関で設定された社会調査に関連した授業の学修要件に求められる本質的内容がどのような合理的配慮の下で保障されることになるのか、その判断の基準をどこに求めることができるのか、についても一定の解答を持つことができるよう調査を推進していくことを目指す。 本年度は、昨年度から引き続き①障害のある調査者が社会調査やフィールドでの活動を進めていく実際の経験と、②仲介者として障害者のフィールド活動を支援した経験をもつ支援者を対象にした質的・量的調査を実施し、支援実施時に障害者の主体性維持がどのような工夫や配慮を通じて保たれているのかを整理していくことを目指す。さらに、学術的な内容を含む情報のアクセシビリティを検討していくうえで、漢字をどう取り扱うことができるのか、実践的な検討を通じてフィールドにおける情報のアクセシビリティについてフィードバックを得ていくことを目指す。 昨年度も感染症の流行状況などから、国外での調査・検討を断念せざるを得ない状況にあった。今後も状況を鑑みながら研究対象を国内に留めるか・国外にも拡げて実施するか判断しながら研究に取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症拡大の影響から調査実施の規模の縮小ほか、対面での打ち合わせや実地での調査実施の機会の中止および延期、学術大会がオンラインでの開催となったことにより、想定した使用額を下回った。 次年度も社会状況などを鑑みながら、オンラインのプラットフォームなども活用しつつ、調査の実施規模や移動範囲を通常化するなど柔軟に対応しながら研究を遂行していきたい。
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