研究課題/領域番号 |
20K13710
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大坪 真利子 早稲田大学, 文学学術院, その他(招聘研究員) (20801773)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カミングアウト / カムアウト / 同性愛 / LGBT / 性的マイノリティ / 個人化 / シュッツ / 自己開示 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代社会における同性愛者の「カミングアウト」をめぐる日常的選択について経験的研究を行うものである。昨年度に既存の一次および二次資料の分析や文献調査を中心とする研究へと方針転換がおこなわれ、今年度はその作業をつうじて得られた仮説および分析枠組みを用いて、過去に実施された調査データの再検討を行った。 作業の結果、「カミングアウトの個人化」(大坪 2022 : 96)と呼ばれる現象が指摘された。すなわち、日常的に反復される異性愛前提的相互行為によって再生産・維持される異性愛主義的な社会構造のなかで、自己責任のもとでカミングアウトを可能的に選択することで、そうした異性愛主義的な構造に当事者が円滑に適応させられ続けるという負担と構造である。 以上を踏まえ、当事者が経験されるカミングアウトをめぐる困難は、その行為の能力や可能性をめぐる問題にとどまらず、そうした行為をめぐって判断を強いられることによる特有の負担も含まれることが確認された。また、社会的条件や規範によってクローゼットという選択肢に行為者が拘束されることなく、カミングアウトをめぐる選定を「自己決定」するような裁量が拡大し、その行為可能性が増大していったとしても、すぐさまカミングアウトをめぐる当事者の問題経験が解消されるわけではないという点が明らかにされた。 以上の成果をつうじて、次の2点が今後の課題として析出された。まず、同性愛者にマジョリティとは非対称に課されるカミングアウトをめぐる負担の経験を理論的に把捉・分析する視座の必要性。そしてカミングアウト研究が対象化するべき「カミングアウトの問題」の再定式化の必要性である。これら課題にたいし、A. シュッツの現象学社会学理論の援用可能性が提案された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度からインタビュー調査を中心とする研究計画から、既存の一次および二次資料の分析や文献調査を中心とする研究へと転換が行われたことにより、本研究課題の達成にむけて作業が軌道にのりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
同性愛者が日常的に経験されるカミングアウトをめぐる負担について、その行為や選択の可能性の枠組みに依拠することなく議論を行うための、新しい枠組みが求められる。そのため、今後はA.シュッツのレリヴァンス概念に着目しながら、同性愛者が自身の非異性愛的セクシュアリティにかんして判断と対処を迫られるという負担が、どのような原理的条件のもとで生じているのかを検討していく。また、これらの作業を踏まえて、カミングアウト研究が対象化するべき「カミングアウトの問題」の再定式化が目指される。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビュー調査から文献資料を中心とする研究計画へと方針転換したことや、国際学会大会などのオンライン開催にともない、当該使用額が生じている。 次年度からの学会大会の現地への出張や、高額な図書資料の購入等の必要が生じているため、その費用として使用予定である。
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