研究課題/領域番号 |
20K13717
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研究機関 | 大分県立芸術文化短期大学 |
研究代表者 |
光野 百代 大分県立芸術文化短期大学, その他部局等, 講師 (10544942)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 在日外国人 / 再就職 / ボランティア活動 |
研究実績の概要 |
先ず、ボランティア活動のプロジェクトを通してフィリピン人介護人材が誕生するという本研究の事例の特徴を整理するために、移民政策学会年次大会にて報告を行った。pathwayとreskillingという二つの概念を用いて、在日フィリピン人による介護職への再就職を支援する互助ボランティア活動を、特定の介護人材不足が当事者の前向きな再就職へとつながる仕組みとして検討した。 その後、The Sociological Review Magazineというイギリスから発信される社会学のオンライン雑誌で、本事例研究から見えてきた移民女性に関する社会学研究の課題について紹介した。移民女性が直面する困難、問題を生む構造を説明する概念は存在するが、問題が解決される仕組みを理論的に説明する知見はあまり見られないように思われる。この気づきは、介護職での就業を前向きに経験している当事者と移民女性に関する社会学研究の知見を共有しにくいと感じる報告者の認識から出てきた。そこで、移民女性のエージェンシーを、問題を生む構造を乗り越えるものではなく、移民女性の労働というものを外国人に不利に働いたり、報いたりする地域社会の仕組みの中で認識する当事者の対応として捉え、介護職での再就職を当事者の積極的行動として捉える視点を紹介することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
協力者への聞き取り調査をオンラインで行う準備を行っていたが、実施可能な環境、条件がそろわず、中断することとなった。また、在日フィリピン人同士の交流を促すボランティア活動も制限がなされていたため、計画していた観察データの収集は実施できなかった。 しかし、当初予定されたデータ収集活動の中断がなければ報告者が検討することはなかったと思われる展開もあった。当初の計画では、事例のボランティア活動で掲げられる目的から、在日フィリピン人の再就職を説明するものとして友情や地域社会との協働などの連帯に注目していた。しかしコロナ禍の状況の中、直接的な交流を伴うボランティア活動が中断される一方で、再就職支援のプロジェクトや、そこから派生した母国から技能実習生を迎えるプロジェクトは続けられている。このことから、直接的な交流よりも、在日フィリピン人と技能実習生の介護労働者の登場を可能にする関係を検討する視点が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に記載した2つの視点を足場に、在日フィリピン人介護労働者の登場を検討し、外国人介護労働者を受け入れる政策の実施を検討する本事例研究の分析を進める予定である。 具体的には先ず、在日フィリピン人介護労働者という特定の外国人介護労働者のニーズが登場する理由を、移民女性の介護労働に関する研究で論じられてきた社会制度や政策との関係の中で検討する。地域の介護施設事業所とつながりを持つ行政関係者との聞き取りからは、外国人介護労働者のニーズは地域にはないという意見、認識が複数出された。そのような認識が地域や事業所にあるにもかかわらず、在日フィリピン人介護労働者の雇用が継続的に観察されるのは、ニーズを正当化する社会制度が存在しているからだと考えられる。 さらに、事例の当事者が意味付ける就職支援のボランティア活動の経験を検討し、その活動が果たす上記のニーズに応える社会的機能と共に考察する。ボランティア活動についてのこれまでの本研究調査から、当事者が直面する問題と当事者に与えられる社会的評価は当事者にとっての問題と解決の関係を成していることが示唆される。この知見を展開して、ボランティア活動に当事者が取り組むことが意義を成す前提の1つとして、外国人労働者の移動を規制する移民政策を検討する。 その上で、事例のボランティア活動と外国人労働者に関する規制との関係を特定し、外国人労働者の介護分野での受け入れに関する政策がどのように実施されるのかの分析を行う。 以上のことを検討しながら、論文の執筆活動と学会での報告を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた調査活動が実施できなかっただけでなく、調査の方向を再検討する必要がでたため、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、調査に必要な資料等の購入、学会参加のための交通費、追加のデータ収集の必要が生じた場合の費用等に使用する予定である。
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