研究課題/領域番号 |
20K13718
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研究機関 | 公益財団法人世界人権問題研究センター |
研究代表者 |
中川 理季 公益財団法人世界人権問題研究センター, その他部局等, 専任研究員 (00846214)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 同和問題 / 自治会 / 自己肯定感 / 教育達成 / 市民団体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、現在の同和問題や同和地区住民の生活課題を明らかにすることである。そのために、京都市の同和地区におけるフィールドワーク等によって、住民の生活を把握したりすることとしている。本年度は、T地区の1つの同和問題と2つの生活課題を明らかにした。 同和問題は、自治会の不在やそれによって招かれている自治活動経験の少なさである。自治会の不在は、自治会を交渉主体として指定する場面への参加を難しくする。また、自治会を対象にした公的支援も、不在であるがゆえに届けられることはない。そのような状況を打破するために新たに自治会が設立されたが、その自治会には自治会活動の経験が蓄積されておらず、自治会事業の運営が相対的に困難である。この状況は、戦後の京都市と住民(部落解放運動団体)による被差別部落の統治をめぐる闘争から生じている。筆者は同和問題に、差別解消のために社会が諸行為を加えた同和地区で生じている、いわば意図されざる不平等というべき不利な生活条件を含めている。以上のことから、上記の同和地区であるがゆえにT地区が抱えていた/抱えている生活課題を同和問題としている。 2つの生活課題は、次のとおりである。1つめは、差別を起因とする自己肯定感の低さである。もう1つは、子どもの教育達成の度合いである。すなわち、高校の中退率や大学進学率などである。 上記のすべての問題は、日常的にT地区住民を支援している市民団体へのインタビューによって明らかになった。 全国的に同和問題の把握が困難な状況において、重要な知見を得たといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、本研究開始までに2つの同和地区において実施していたフィールドワークを進展させることと、新しく1つ以上の地区においてそれを展開することとしていた。昨年度は、前者を履行して新しい同和問題を明らかにし、本年度は後者を履行して新しい同和問題を明らかにした。 研究計画を履行し、研究目的を達成しているため、この評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査によって、いくつかの同和問題や同和地区住民の生活課題が明らかになった。それにより、現在の同和問題等が当初着目していた自治会(自治活動)にとどまらないものであることも判明してきた。今後は自治活動にとどまらず、さらに対象を広げて研究目的である同和問題等を明らかにしていきたい。 今後は、各地区の生活に関する歴史を資料や聞き取りにもとづいて把握していきたい。同和問題を捉えるには、現在の住民の生活と差別等との関係を明確にする必要があるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生は、コロナ禍の影響により、リアルでの学会・研究会への参加やフィールドワークの実施が少なくなり、移動経費などが抑えられたためである。 2022年度は、現時点においては前年度よりも移動をともなう研究の機会がひらかれると考えているため、可能な範囲で積極的に調査等を展開したい。また、「今後の研究の推進方策」に記載した資料調査において、資料の購入や複写に経費が要る。それらに研究費を活用したい。
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備考 |
1 本研究の成果を盛り込んだ論文「特別措置法失効後(2002年-)の同和問題と〈隣保事業的実践〉――京都市旧隣保館における指定管理者の活動と「隣保事業」の可能性」によって、博士の学位を得た。 2 第58回全国隣保館長研修会「実践報告」(アドバイザー)、第58回全国隣保館職員近畿ブロック研修会シンポジウム(シンポジスト)において、本研究の成果について言及した。
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