研究実績の概要 |
初年度は, (1)市民後見人が活動時に感じる困難さの調査分析, (2)市民後見人の育成と支援の課題整理, (3)「市民後見人が受任を不安視する理由と対応」について, 4自治体で活動する市民後見人と成年後見実施機関(以下, 実施機関)管理職へのヒアリング, の3点を行った. (1)ではCOVID-19感染拡大により実施機関を通じて市民後見人へのアプローチが困難となり, 2016年に実施した市民後見人(112件)による自由記述データを再分析した. その結果, 市民後見活動上の困難には,被後見人等に経済的に余裕がないための負担感, 善意を越えると感じた出来事に遭遇, 後見監督機関のサポート不足, 関係者優位の意思決定等にあることが明らかになった. その上でこれらの要因について専門職後見人が感じる困難さとの比較を行った. (2)では先行研究を整理した結果, 受任を不安視する理由は ①後見人としての役割を果たしていけるか, 実施機関からどれだけ支援が受けられるか, ②選任の見通しが立たない, 家裁が選任する上限の70歳までに選任されるか, ③後見活動を遂行する上での困難さに整理された. 特に③では, 市民後見人が受任経験(複数回)を積み自身の経験値を増すこと, 実施機関の支援体制の厚さ等により不安(負担感)が軽減されることが明らかになった. (3)では市民後見人6名より, 市民後見人が自己の社会生活上であまり経験したことのない事務で大きな負担感を伴い, 専門職でなく目線が同じである市民後見人経験者によるチューター的な指導が, 身近で不安感が共有されるため有効との意見がみられた. 一方, 実施機関管理職3名から, 受任を躊躇するケースが一定数存在すること, 監督業務としての活動報告書の点検, 定例開催されるフォローアップ研修以外の継続的支援には, 実施機関によって濃淡がみられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響を受けたものの研究活動の活性化を図るべく, (1)現任の市民後見人112人分のデータを再分析, (2)先行文献の整理, ならびに(3)市民後見人と実施機関管理職, 双方へのヒアリングを実施した. これらにより, 厚生労働省『 成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(詳細版)』(2020)における, 市民後見人の育成が進んでいない理由の解明, ならびに支援課題を整理することができた. また, 実施機関での市民後見人への継続的支援の認識は多様であり, 市民後見人が望む支援との間には相違点がみられた. これらを勘案しつつ次年度以降の研究課題を推進する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進は, 研究計画に示した内容を進める. 令和3年度は, 市民後見人が困難に感じる後見事務と支援ニーズを面接調査によって明らかにする .特に身寄りのない人の後見的支援に焦点化し, 被後見人, 家族等, 支援関係者との関係性の構築, 困難に感じた後見事務に関する具体的なエピソード, 市民後見人自身の意識の変容過程の叙述を求める. すでに調査協力者には, 調査意図と目的を伝えており, 対面でのインタビューが難しい場合にはオンラインにて実施する予定である. 令和4年度は, 地域のネットワークを活用した市民後見人への支援事例を収集し分析する. 被面接組織の選定は, 地域を基盤とした社会資源(行政, 職能団体, 民間企業, ボランティア等)を積極的に活用しながら市民後見人への支援を活発かつ先進的に行っている実施機関と, その傘下にある市民後見人で組織する市民後見人連絡会に協力依頼する(各5団体程度). 面接内容は, 市民後見人に対する個別支援やフォロ―アップ研修等の基本的な育成・支援内容とプロセス確認, 地域の協働相手との関係づくりとネットワーク等を活用した支援内容, 協働活動でうまくいった代表的な事例, 残された課題等, 特に課題となっていたが, 工夫の末, 課題を解決した事例を重点的に収集する.
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