研究課題/領域番号 |
20K13741
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
渡辺 長 帝京科学大学, 医療科学部, 講師 (40742044)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タイの高齢化 / 伝統的ケア / 質的研究 |
研究実績の概要 |
2019年にタイ東北部の地域高齢者を支える家族介護者の介護負担感に関するアンケート調査を315名に実施し、先進国並みの負担を抱えていることが判明した。今回の質的研究では、その介護負担感の構成要素と生成プロセス及び親族間におけるケアの役割分担について明らかにした。2019年タイ東北部のコラート県の家族介護者17名に対して半構造化面接を実施したものをGTAを用いて分析した。 結果として介護負担感は「心理的負担」「身体的負担」「時間的制約」「経済的負担」という4つで構成され、この決定には提供している介護内容のほか「家族への使命感」「介護の恩恵」「仏教信仰」という3つの介護に対する動機付け及び「家族間役割分担」の介在が影響を与えていることが示唆された。介護者による肯定的介護評価は介護継続意欲の向上との関連も認められているため、介護支援者政策には介護負担の軽減だけではなく、タイの文化的背景も考慮し、仏教信仰を軸とした肯定的意味づけを提示し、介護に対するやりがいや意義を見出す支援が求められることを明らかにした。 日本のような介護保険が存在しない東南アジア諸国(タイ)では、地域住民による相互扶助がケアを支える一方、急進する少子高齢化とネオリベラリズムの台頭によってこれまでの伝統的ケアの原理が瓦解してきていることが示唆された。この世界的な潮流を変えることは困難だが、少なくともタイの家族介護者の精神的支柱には「仏教」が深く関わっていることが明らかとなったため、今後も社会保障の確立が困難な東南アジア地域でケアの課題に向き合う時、この宗教観の活用は一つの鍵になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍によって渡航が叶わず、データ収集が未だ叶っていない。そういう中でも現地パートナーと連絡を取り、研究データを一部集めることができた。これによって当初の予定通り、タイの家族介護者のケアの分散について論文を一つまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、コロナ禍の状況が落ち着けばタイへ渡航し、改めて家族介護者に対するアンケートやインタビュー調査を実施したいと考えている。また渡航が叶わない場合には、これまで集積したデータを再分析することで、家族介護者を支援する社会的資源の実態を統計学的に導き出したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスのパンデミックにより、2020年~2021年度まで丸3年間、海外渡航が叶わなかったため、旅費分が使用できず次年度への持ち越しとなった。
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