2022年度は、常用労働者数「30人以上100人未満」の事業所にアンケート票を郵送し、職場適応援助者から援助を受けていることを条件に1社を選定し、10名の従業員に対してインタビューを実施した。その結果、上司や同僚は職場適応援助者から援助を受けることで、自身の偏見に気付き、これまでになかった人的、物理的設定を必要に応じて配置していることが確認された。そのことから、上司や同僚は職場適応援助者から指示の出し方やコミュニケーションの取り方を学び、実際に試してみるなど、試行錯誤する機会の有無が重要であることがわかった。また、職場適応援助者は、障害者と職場との環境調整を進めるなかで、障害者雇用に不安や負担感を抱いている上司や同僚の心理を理解し、積極的に話を聞く姿勢が求められた。次に、自閉スペクトラム症者の職場定着支援を担当した職場適応援助者にヒアリングを実施した。ヒアリングでは、自閉スペクトラム症者の職場実習から正規雇用に至るまでの支援経過について聞き取り、その実践について事例研究を行った。その結果、たとえ援助付きであっても、本人が自分で「できる」という気持ちになることが職場定着において重要であった。そのため、今から「できる」ことを創造し、それを拡大することを支援の中心に据える必要があると考えられた。以上のことから、自閉スペクトラム症者の雇用継続を可能にするためには、当該個人のポテンシャルを発見するための支援ではなく、どのような援助設定が必要なのか、事業主側と支援者側の両者が協同し、「できる」を創造するために必要な条件を環境から見つけ出し、行動のレパートリーが拡大することで、事業主側の援助行動を促進させていく必要があることが示唆された。
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