わが国の高齢者において経済的な格差が広がり、健康格差の拡大について危惧される状況である。一方、わが国の介護保険制度において、2015年(平成27年)より、高所得者はこれまでの介護保険サービス利用者負担割合が1割から2割、2018(平成30年)には3割と利用者の負担割合が引き上げられた。国では、低所得者へのセイフティーネットは設けられるようになったが、高所得者へのサービス利用への負担増による弊害などの検証は十分に行われていないと考えられる。そこで、利用者負担割合の引き上げ導入における制度変更後の影響について、心身機能や介護度など多角的な要因を考慮し、介護保険サービス利用と経済的負担感との関係について明らかにし、高所得者のサービス利用の状況を明らかにすることを目的とした。 本研究では、A市の在宅要介護高齢者を対象とした「A市高齢者保健福祉計画策定に係るアンケート調査のデータ」の調査を用いて、利用者負担割合3割の導入前後の状況について分析及び検証を行い、介護保険サービスの利用と経済的負担感との関連について把握した。 その結果、介護保険サービスにおいて、利用者負担が3割までに引き上げが導入された前後において、介護保険サービス利用の有無と経済状況との関連について、変化はみられなかった。また、経済的状況別の介護保険サービス利用割合についても、制度変更後増加していたため、経済的にゆとりのある人が、介護保険サービスを控えた可能性は低かったと考えらえる。
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