研究課題/領域番号 |
20K13808
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
塚崎 舞 実践女子大学, 生活科学部, 助教 (50844924)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タンパク質 / 直接 / 定量 / 反射率 / 色 / 繊維基質 / 汚れ / 洗浄 |
研究実績の概要 |
これまで、被服すなわち繊維基質に付着したタンパク質は、有機溶媒や強アルカリ水溶液中で抽出し、溶液として分析定量する必要があった。本研究は、繊維基質上に付着したタンパク質を、抽出処理を必要とせず、実験者による測定値のバラつきを抑える簡便な処理で、直接定量する方法を検討している。タンパク質は、汗や脂質と混合し皮膚表面環境を保護する働きがある一方、無色の有機汚れであるため衣服に付着し洗い残しがあると、黄ばみや悪臭の原因となる。本研究を発展させることは、簡便で安全、正確なタンパク質定量法を開発するとともに、皮脂汚れを評価する新たな指標として洗浄・衛生分野の研究発展に貢献し得るものである。 定量方法として、アルカリ環境下でビシンコニン酸および銅イオンを用いた呈色還元反応であるBCA法を利用し、タンパク質量に応じた呈色(赤紫色)を反射率測定により評価する。色相の違いにより、目視での判定も可能となる。すでに、これまでの研究で、セルロース基質のモデルとして定性濾紙および綿平織布で、モデルタンパク質であるウシ血清アルブミン濃度と呈色反応の反射率に直線関係が示され検量線を求めることができている。 この点を踏まえ、繊維基質として14種の布帛を選定し、被服用の繊維材料として広く用いられる綿を中心に、実験条件の精査を行った。すなわち、布帛の厚さ、繊維種の違いによる反応性を検討し、基質直接定量法として適する条件を考察した。 さらに、今後は計画の通り、タンパク質の種類による反応性への影響を検討する。これは、タンパク質定量法としての汎用性を探るとともに、被服の洗濯環境共存物質としてのタンパク質(酵素)による影響を考慮し、タンパク質の基準として用いられているウシ血清アルブミンの反応性と比較検討する。 以上を踏まえ、タンパク質汚染布による洗浄評価に本研究の定量法を適用し評価方法の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大により研究のスタートが遅れた一方で、研究費により必要機器が揃い、これまで他校で共同研究として行っていた実験を本務校で行うことが可能となり、勤務の合間を縫って実験を進められるため遅れを取り戻せている。 これまで基準基質として用いてきた綿金巾白布を除き、厚さ、織の異なる綿繊維布帛5種、綿以外で繊維種が異なる8種(麻、ジアセテート、キュプラ、ポリエステル、綿ポリエステル混紡、ナイロン、羊毛、絹)の反応性を検討するため、同濃度のウシ血清アルブミン試薬を滴下し、基準の反射率と比較した。実験条件については、家政学会誌(2020)にて発表した方法よりもさらに改良を重ね、反応基質をシートで被うことで還元反応を明確に進行させ、変化を鮮明に確認できるようになった。 この結果、タンパク質繊維である羊毛、絹の2種に基準との明確な反応性の違いが確認された。他布帛より濃色を呈し、繊維に含まれるタンパク質に反応したと考えられ正確な定量は困難であることが明らかとなった。綿および他6種の繊維種布帛においては、反応試薬を繊維中に保留できる吸水性や厚みが反応性へ大きく寄与していると考えられた。吸水性が低く厚みが薄い場合、測定時に、赤紫に呈色した反応液が基質布帛から多量にしみ出し、布帛自体の反射率により淡色として計測される傾向が確認された。そのため、薄い布帛は2枚重ねることで試薬の流出を防ぐことに成功した。また、綿平織の1種において、基準と比較し明らかに反射率が低く何らかの影響が認められた。これは布帛の工業的精練で用いられた酵素による影響が考えられる。 これまでの研究経過より、布帛による反射率への影響は、基準と同様の条件を適用できるものがほとんどであり、さらに溶液法と同様、一度検量線を求めた上での定量は問題ないと判断し、基質定量法が多くの布帛に適用可能であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね計画通りに進行していることから、今後はタンパク質の種類による反応性への影響を検討する。基準タンパク質として広く使用されているウシ血清アルブミン以外に、被服の汚染原因となるタンパク質として、人工汚染布の原料に用いられるミルクカゼイン、ゼラチンを選定した。ミルクカゼインはヒトの母乳、食品汚れのモデルとしても捉えることができる。また、ゼラチンは日本国内で広く知られている湿式人工汚染布のタンパク質汚れのモデルとして使用されているが、分子量に大きな幅があることが知られている。本研究で試薬として用いるゼラチンの分子量的特性の検討を試みることで、他タンパク質との反応性の違いや分子量による影響を考察する。 さらに、よりヒトの皮脂に組成が近い羊毛由来ケラチンについても検討する予定である。タンパク質には水不溶性であるものがあるため、ウシ血清アルブミン同様に水溶液として用いる方法も併せて検討したい。また、タンパク質を溶液にした際のpHによって、本研究の反応試薬であるBCA試薬のpHにどの程度影響し、測定結果が基準のウシ血清アルブミンと比較してどのように変化するのかを試行する。 さらに、2020年度の検討結果より、精練処理に用いられる酵素による影響、さらに洗濯洗剤に添加されている酵素等、本研究における定量法で使用する試薬との共存物質の影響を検討し、実用的な条件を考察していく方針である。そのため、最終的にタンパク質汚れの洗浄評価指標としての実用性を検証するため、実際に洗濯用洗剤に用いられる酵素を用いて簡易的な洗浄試験を行い、その残留タンパク質濃度の定量にどの程度の影響があるのかを検討する。
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