研究課題/領域番号 |
20K13828
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
加藤木 秀章 実践女子大学, 生活科学部, 准教授 (00625296)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 繊維 / 疲労 / 吸水 |
研究実績の概要 |
本研究の目的達成のためには,まず天然繊維(植物繊維や動物繊維)を用いた繊維製品の材料の疲労特性について解明が必要となる.それらの繊維製品においては,繰返し変形による風合い劣化やくたびれ現象,繰返し負荷による天然繊維表面の損傷が生じる可能性がある.次に持続可能な開発目標に寄与する繊維製品の設計・開発では,構成材料の静的引張試験や疲労試験結果を比較検討し,疲労の特性を明らかにする必要がある.2020年度の研究活動においては,綿,絹,羊毛を始めとする布の疲労の特性を明らかにするため,それらの試料の静的引張試験および疲労試験の実施や試験条件等を検討してきた.2022年度の研究活動においては,疲労破断するまでの長時間実施となったため試験回数が少なく,2021年度でも静的引張試験および疲労試験を継続実施した.デシゲーターを利用した簡便な吸湿方法を提案し,疲労試験前の環境条件決めに関する知見も明らかにした.それらの吸湿前後の各種試料の状態や静的試験結果をもとに疲労試験の条件を決定し,湿度環境条件を考慮した布の疲労特性に関する試験結果について比較検討を行った.その結果として,乾燥している場合,糸密度がたて方向およびよこ方向で異なる各種の布では,その組織や素材の構成によって疲労特性に影響を及ぼすことを示唆できた.また,吸湿が天然繊維を用いた布の疲労寿命に大きく影響を及ぼすこともわかった.2021年度における一部の研究成果については,国内学会で研究発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの研究実績においては,未湿潤の各布の静的引張試験および疲労試験を実施し,優れた疲労特性を有していることがわかった.2021年度の研究活動では,たて方向およびよこ方向での吸湿前後の布の静的引張試験および疲労試験も実施した.2021年度での疲労試験の条件として,繰返し周波数は10Hz,最大繰返し数は106回までとした.デシゲーターを利用して高い湿度環境を模擬し,所定時間吸湿させた疲労試験条件について検討した.未吸湿および吸湿させた各種の布の静的引張試験結果をもとに,疲労試験で設定する最大応力を決定した.天然繊維の中でも特徴的な側面・断面形状を有する羊毛繊維を用いた布の疲労試験結果では,以下のことが分かった.最大応力の90%で疲労試験を実施した場合,吸湿前後の毛織物の疲労寿命は一部を除き106回以下で破断していた.最大応力の80%で疲労試験を実施した場合,吸湿させた毛織物の疲労寿命は106回繰返し負荷し続けてもほとんど破断しなかった.羊毛繊維を用いた布は,破断ひずみが長く,顕著な静的引張挙動を示すことが知られている.その羊毛繊維を用いた布の静的引張挙動を考慮した一軸疲労試験に必要な試験条件を明らかにし,吸湿が布の疲労特性に影響を及ぼすことを示唆することができた.しかしながら,コロナ禍による入構できない期間等が生じ,試験実施回数が少なくなったため,2022年度も疲労試験の継続や走査型顕微鏡観察を実施し,吸湿前後での布の微細な損傷過程についても検討する.
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍によって従来計画していた研究活動に遅延が生じた.水分を検討した上での静的引張試験および疲労試験が実施可能な条件について検討・評価までは達成したものの,長時間かかる疲労試験においては更なる試験回数を実施し,検証が必要であった.そのため,2020年度も同様に継続して評価を行う.また,現象について詳細な検討も必要であるため,実験結果と有限要素法解析を利用した解析で比較する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度から続くコロナ禍により,2021年度で予定していた静的引張試験および疲労試験の試験実施回数にも支障が生じ,2022年度の執行予算および計画に変更が生じたため,各試験に必要な費用に充てる.
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