研究課題/領域番号 |
20K13829
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
松本 雄宇 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (80803262)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 米タンパク質 / セラミド合成酵素 / 肝障害 |
研究実績の概要 |
研究目的:近年の研究で、スフィンゴ脂質の一つであるセラミドがNAFLD発症や進行と密接に関係していることが明らかとなり、今後のNAFLD対策を考えるうえでセラミド代謝を中心とした研究の必要性が高まっている。先行研究において、白米や玄米摂取がセラミド代謝の変動を介してNAFLD発症を予防することを示唆する結果を得ているが、NAFLD改善効果とその作用機序については明らかとなっていない。そこで、本研究では米によるNAFLD改善効果とセラミド代謝を中心とした分子機構の解明を目的とする。
研究計画:脂肪酸添加による脂肪滴形成とセラミド代謝の変動について検討した。①パルミチン酸:オレイン酸(1:2)を肝がん由来細胞であるHuh7細胞に24時間添加したのち、Oil red Oにて細胞内の脂肪滴を染色した。②セラミド合成酵素の活性を阻害する薬剤であるMyriocinの添加によって、脂肪酸添加による脂肪滴形成が変化するか検討した。また、③NAFLDモデル動物(KK-Ayマウスに60%高脂肪食を4週間摂取)を使用して、米タンパク質がNAFLDに及ぼす影響とセラミド合成酵素の遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。
試験結果:脂肪酸添加により濃度依存的な脂肪滴の形成を確認できた。また、Myriocinは脂肪酸添加による脂肪滴の形成を抑制できることが示唆された。さらに、米たんぱく質をNAFLDモデル動物に摂取させた結果、精巣脂肪重量や肝障害マーカーとして知られる血中ALT濃度が低下していた。さらに、肝臓のセラミド合成酵素(CerS6、DEGS1)の遺伝子発現量の低下も認められた。一方で、肝臓中のトリグリセリド量に変化は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初はセラミド合成が亢進する脂肪肝の条件を動物を用いて検討する予定であったが、新型コロナウイルス感染症による行動制限の影響から培養細胞による実験系に変更した。 肝がん由来細胞であるHuH7細胞にパルミチン酸:オレイン酸(1:2)を添加することで、濃度依存的な脂肪滴の形成を確認できた。また、セラミド合成酵素阻害剤であるMyriocinは脂肪酸添加による脂肪滴の形成を抑制できることが示唆された。 一方で、米に含まれるセラミド代謝を変動させる成分についても検討した。米に含まれるたんぱく質をNAFLDモデル動物に摂取させた結果、肝障害マーカーとして知られる血中ALT濃度が対照群に比べ低下していた。さらに、肝臓のセラミド合成酵素(CerS6、DEGS1)の遺伝子発現量の低下も認められた。セラミドは肝臓において脂質毒性を示すことも知られている。したがって、米タンパク質はセラミド代謝の変動を介してNAFLDによる肝障害を抑制することが示唆された。 このように、脂肪酸添加によるNAFLDモデル細胞の作製や、米に含まれるセラミド代謝を変動させる成分として米タンパク質が予想できた。一方、NAFLDモデル細胞におけるセラミド合成酵素の発現量について検討できていないこと、細胞内のセラミド量について検討できていないことから、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き培養細胞を用いて米由来成分によるNAFLD改善効果の検討と、セラミド代謝を中心としたメカニズム解明を目指していく。これまでの研究によって明らかとなった点をふまえ、①初年度に続きセラミド代謝が変化するNAFLDモデル細胞を作製する。具体的には、パルミチン酸:オレイン酸(1:2)やフルクトースを肝がん由来細胞であるHuh7細胞に添加したのち、セラミド合成酵素であるCerS6、DEGS1などの遺伝子発現量を検討する。その後、セラミド量についても検討する。②米タンパク質加水分解物がセラミド合成酵素の発現量に及ぼす影響と、③米タンパク質加水分解物が脂肪酸酸による脂肪滴の形成や細胞死に及ぼす影響についてHuh7細胞を用いて検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による行動制限の影響により、当初予定していた実験動物を用いた条件検討が困難であると判断し、培養細胞を用いた実験に切り替えたことが理由としてあげられる。次年度も引き続き培養細胞を用いた実験で米由来成分によるNAFLD改善効果の検討と、セラミド代謝を中心としたメカニズム解明を目指していく。具体的には、脂肪酸やフルクトースを用いたNAFLDモデル細胞の作製、NAFLDモデル細胞におけるセラミド代謝の検討を行う。また、米タンパク質は血中肝障害マーカーを低下させること、さらに、肝臓中のセラミド合成酵素の発現量を低下させる結果を得ていることから、より詳細なメカニズムをNAFLDモデル細胞を用いて検討していく。
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