研究課題/領域番号 |
20K13838
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々木 朝子 北海道大学, 大学文書館, 特定専門職 (70830644)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 林学教育 / 東北帝国大学農科大学 / 林学科 |
研究実績の概要 |
2021年度は、東京帝国大学に続いて帝国大学として2番目に林学科を設置した東北帝国大学農科大学(1907年設置)について、林学科とその卒業生に関する調査を行った。林学科のカリキュラム及び担当教官を確認するとともに、卒業生の卒後進路調査として、同窓会誌の悉皆調査及び国立公文書館や国立国会図書館における資料調査を実施し、以下の事柄を確認した。 東北帝国大学農科大学林学科のカリキュラムは、1907年の設置時に「東北帝国大学農科大学規則」中で定められた。1907年に定められたカリキュラムは第一期生が入学した1910年に改正され、「森林動物学」が「応用鳥学」と「森林昆虫学」に分割されるなど、動物学に関する科目が細分化されたほか、第二年から第三年にかけて並行して課されていた「森林利水及砂防工学」「森林保護学」「森林管理学」は、第二年で「森林理水及砂防工学」が、第三年で「森林保護学」「森林管理学」が課されるように変更された。また、随意科目に「植民学」が追加された。1913年にはカリキュラムが再度改正され、「森林美学」が追加された。林学科の担当教官は、主に帝国大学(東京帝国大学)卒業生であり、東北帝国大学農科大学の卒業生で教官となったのは、1914年に大学院を卒業、助教授となった中島広吉が最初である。 東北帝国大学農科大学林学科卒業生の専攻分野の傾向を示すものとして卒業論文題目に注目すると、造林学や森林利用学を扱う論文が多く見られる一方で、理水・砂防工学に関する卒業論文は2本に留まっており、専攻分野に偏りがみられた。また、東北帝国大学農科大学で助教授や助手として勤務を開始した卒業生は、森林経理学や造林学を専攻した学生であった。理水・砂防工学を専攻した2名は大学院に進学した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、当初の計画を変更して資料調査を実施している。資料調査対象とする4つの帝国大学、11校の高等農林学校及び付設の林学実科のうち、2021年度までに、東北帝国大学農科大学林学科及び北海道帝国大学林学実科について、北海道大学大学文書館において卒業生の卒後進路の悉皆調査を、盛岡高等農林学校林学科について、岩手大学図書館において同窓会誌より卒業生の進路に関する資料調査を、宮崎高等農林学校について、宮崎大学において同窓会誌や大学発行の刊行物の資料調査を実施した。 2021年度には、林学科を備える帝国大学(東京帝国大学)、京都帝国大学、東北帝国大学、九州帝国大学のうち、帝国大学農科大学林学科とその前身校である東京山林学校・東京農林学校、京都帝国大学農学部林学科、東北帝国大学農科大学林学科・北海道帝国大学農学部林学科を対象とする資料調査を行った。 東京山林学校・東京農林学校・帝国大学については、東京大学文書館にて、佐藤鋠五郎(1886年東京山林学校入学、1892年帝国大学農科大学林学科卒業)旧蔵の受講ノート及び卒業後の朝鮮総督府林政関連文書の調査を行った。京都帝国大学農学部林学科については、京都大学大学文書館にて、大学新聞より林学科卒業生の就職状況に関する資料調査を行った。 東北帝国大学農科大学林学科については、主に北海道大学大学文書館・北海道大学附属図書館の所蔵資料に基づき、林学科のカリキュラム、林学を担当した教官を確認した。また、卒業論文、同窓会誌等に基づき、卒業生の卒業論文題目、卒業後の進路の悉皆調査を行った。 以上、当初の計画で2022年度までに予定していた資料調査を、ほぼ実施することができた。よって、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、引き続き、林学科を設置する帝国大学と、高等農林学校及び大学が付設する林学実科等について、それぞれ資料調査を行う予定である。 帝国大学については、九州帝国大学農学部林学科に関する資料調査を九州大学文書館にて行う。九州大学文書館には、「農学部移管資料」として学生関係の文書や農学部林学科学生の実習の場となった附属演習林の文書等が保存されており、資料調査の必要がある。 高等農林学校及び林学実科等については、宇都宮高等農林学校、岐阜高等農林学校、三重高等農林学校、鳥取高等農林学校、鹿児島高等農林学校、水原高等農林学校、台湾総督府農林専門学校・台北帝国大学附属農林専門部の調査を予定している。うち、宇都宮高等農林学校、岐阜高等農林学校、三重高等農林学校、鳥取高等農林学校、鹿児島高等農林学校の資料は、後身校である宇都宮大学、岐阜大学、三重大学、鳥取大学、鹿児島大学の附属図書館に所蔵されている。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の拡大により、以上の施設のうち部外者の利用を認めているのは岐阜大学図書館本館のみである(2022年4月現在)。よって、国立国会図書館や国立公文書館での調査を中心に行い、後身校の図書館等が所蔵する刊行物については複写、図書館間での貸借を積極的に利用する。水原高等農林学校、台湾総督府農林専門学校・台北帝国大学附属農林専門部の資料調査については、国立国会図書館や国立公文書館での資料調査を中心とする。 また、資料調査後には、東北帝国大学農科大学林学科を中心として他の帝国大学の農学部林学科との比較を、東北帝国大学の付設の林学科を中心として高等農林学校や大学付設の林学実科等との比較を行い、考察する予定である。
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備考 |
北海道大学大学文書館年報 https://www.hokudai.ac.jp/bunsyo/publication.html
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