研究課題/領域番号 |
20K13839
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
山田 真由美 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (40795126)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 「期待される人間像」 / 「新日本建設国民運動要領」 / 「国民実践要領」 |
研究実績の概要 |
本研究期間においては、1963年6月に「期待される人間像」が諮問された背景と、1964年9月に主査高坂正顕により「第一次草案」が執筆されるまでの審議について検証を進めた。 1)これまでの研究では「期待される人間像」の諮問にあたり、関係者間でどのような議論があったかということは十分に検証されていなかった。そのため関係資料の調査を行い、池田内閣の成立後、経済審議会に「人的能力政策部会」が立ち上げられた1961年前後より、経済主導の教育政策に対する批判的な見解が、文部省の関係者をはじめ、中教審の会長を務めた森戸辰男らによりすでに主張されていたことを明らかにした。「期待される人間像」は、人間を「人的資本」ととらえる当時の政策動向に対して、教育を受ける側の人間性を強調し、そのあり方を検討する目的で諮問されたのである。 2)諮問の経緯に続いて、「期待される人間像」を審議した第19特別委員会の審議内容について、速記録をもとに検証した。審議において、①森戸辰男の「新日本建設国民運動要領」と天野貞祐の「国民実践要領」が参考として議題に上げられていたこと、②各委員の関心がそれぞれのバックグラウンドのもと非常に多岐にわたったこと、③各委員の広範な発表内容が「第一次草案」に注意深く取り入れられたことが明らかになった。「期待される人間像」をめぐる具体的な審議過程と、各委員の関心の方向性についてはこれまでほとんど検討されてこなかったため、本研究を通しては、戦後の道徳教育政策の理論的な基盤に関する重要な視座が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はコロナウイルスにかかわる移動制限により資料調査に出向くことができなかったが、関連資料および審議の速記録が国立公文書館デジタルアーカイブにて公開済みであったため、なんとか順調に研究を進めることができた。電話での細かな問い合わせに応じてくださった国立公文書館に深く感謝している。 一方、学会の中止や出張の制限などによる混乱のため、本研究に関する口頭発表の機会を十分に確保することができなかった。研究会のオンライン開催も定着してきたので、次年度以降は積極的に発表していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は「第一次草案」の提出までの審議を検討することができたため、次年度は「第一次草案」から「中間草案」にいたる審議の過程を検証し、高坂による草案をもとに、具体的にどのような議論が展開されたかを検証する。また、今年度の成果に関連して、①審議において話題になった「宗教」および「宗教的情操」について、各委員が同時期にどのような見解をもっていたか、②審議の参考として提出された「新日本建設国民運動要領」および「国民実践要領」について、両文書が審議においてどの程度把握され、「期待される人間像」の執筆にあたりどの程度参考にされたかということについても、関連資料をもとに検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンライン大会になったため旅費を支出する必要がなく、またコロナウイルスにかかわる移動制限のため資料調査に出向くことができなかったため
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